第2章

第3話 7人目の夢幻交差者

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙、訳わかんねぇ」


 煌先輩が叫ぶ。きっと他の人も同じことを心の中で思っているだろう。


「とりあえず、今は守護者の言葉に従ってみましょうよ。考えいてもどうにも出来ませんし。もしかすると、そのコアとやらを修復する過程で何か分かることがあるかもしれませんし。」


蓮の発言でコア探しを始めることとなった。彼は今1番にするべきことを考えて、みんなに意見した。今の彼はとても頼り甲斐のある人だと思った。


コアはどう探せばいいのだろうか。そんなことを考えていたが、コアは案外すぐに見つかった。コアを探そうと思っただけで、強いエネルギーのようなものを感じた。これが夢響による力なのか。


他の5人も同じようだ。6人はその力のする方へ移動した。


人影ひとつない異様な風景に不安を感じながらも歩き続けた。しばらく歩くと、その力は次第に強くなっていく。


―ゴゴゴゴゴ―


「きゃァ」


突然、辺りの地形が音を立てて変化し始める。地面が盛り上がり、辺りに砂埃が舞う。砂埃が消えてきて、辺りの状況把握ができるようになった。6人を囲むように岩の壁ができていた。


「まるで、迷宮だな」


辺りは暗く、目の前には1本の道がある。


「これじゃあ、道が見えない…」


冬華さんの心配そうな声がする。


ふと、僕の能力について思い出す。


たしか、幻光とか言ったよな。光を操れるんだったら!


光を目の前に作りだすイメージをしていく。集中力を高め、夢響の力を引き出していく。


「明るくなってきた!」


葵が元気そうに言う。冬華さんや紫音さんも少し安心を取り戻したようだ。


「他のみんなはどんな力が使えるかわかる?」


「私は風を操れるみたい!」


葵が手の上で風を発生させ、小さな砂嵐を作っている。風を操れるのは今後大いに役立ちそうだ。


他の人もそれぞれどんな能力を持っているかがわかった。


それぞれの使える力と効果をまとめると…


蒼月 能力の名前:「幻光(げんこう)」

効果:光を操り、明るさや光の強さを調節することができる。敵を眩惑させるために使ったり、闇を照らし出して隠れたものを見つけるのに役立つ。


葵 能力の名前:「花風(かふう)」

効果:風を発生させることができる。花びらを舞わせたり、風の力で攻撃を防ぐことができる。


蓮 能力の名前:「因果(いんが)」

効果:過去に起きたことや、ことの原因について、夢響に刻まれた記録を読むことができる。また、それらを他人に見せることができる。


紫音 能力の名前:「癒音(ゆいん)」

効果:癒しの音を奏で、回復や安らぎをもたらすことができる。仲間の傷を癒したり、心を落ち着かせるために使う。


煌 能力の名前:「炎牙(えんが)」

効果:炎の力を宿し、炎を操ることができる。炎の斬撃や炎の盾を作り出し、敵を攻撃したり、仲間を守るのに役立つ。


冬華 能力の名前:「霜華(そうか)」

効果:氷の力を操り、寒さや氷結をもたらすことができる。氷の剣を作り出したり、氷の結界を形成して敵を凍らせたりする。


6人は迷宮を奥へと進んだ。


僕の光で近くは照らすことが出来たが、道の奥の方は暗闇で全く見えない。ひんやりと冷たい空気が肌を触る。すきま風だろうか。すこし風が吹くだけで不気味な感じがして冷や汗が出てくる。


少し進むと道が3本に別れていた。


「ここは僕がいきます」


蓮は迷宮の壁に手を当てて目を閉じた。みんな息を飲んで待っていた。静かな迷宮はとてつもなく不気味で、不安を掻き立てる。


「わかりました。この道がコアへ通じるようです。」


蓮が右の道を指さす。


「わかった。じゃあ、この道を進もう」


蓮を信じ、また歩き出す。迷宮の奥に進むにつれて夢響のエネルギーが強くなってくるのを感じる。体の中を隅々まで駆け巡っている感じが気持ち悪い。


しばらく順調に進んでいたが、


―カーン―


奥の方から物音が聞こえる。みんな足を止めて耳をすませる。6人にとてつもない緊張感が走る。


―カーン、カーン―


音が確実に、そして等間隔に聞こえてくる。心拍数がどんどん上がり、自分の鼓動が聞こえてくる。


「慎重に進もう…」


忍び足で進んでいく。ゆっくりゆっくり、光も最小限にして進む。


道の奥に曲がり角が見える。そこから光がもれている。どうやら部屋があるようだ。音もそこから聞こえてくる。


―カーン、カーン、カーン―


ゆっくり、音を立てずに進んでいたそのとき、


―プー―


心臓が止まると思った。


「すまん…」


煌先輩がオナラをしてしまった。それを聞いて少し安堵したが、それも束の間、


………………


さっきまで鳴っていた音が全くしなくなってしまった。また心拍数が上がる。


足音が近づいてくるのが聞こえる。1歩1歩の音が妙に規則的に感じられ、それが6人に緊張感をもたらす。


「構えろ!」


僕は叫んだ。もうバレてしまっている。なら、敵だと予想して身構えるのが最善の策だった。


道の角から何かが出てくる……



人……?



暗闇ではっきりは見えないが、確実に人間の形をしている。さらに、その人はこちらへ近づいてくる。


「それ以上、近づくな!」


声を荒らげる。近づいてきて、いきなり襲われでもしたら冗談じゃすまない。


その人はそこで止まった。会話は通じるようだ。


「名前をまず教えろ!そしてお前は俺達と同じ夢幻交差者なのか?」


「……」


煌先輩の問いに答えない。静かな空間にみんなの荒い息遣いだけが聞こえる。


「仲間なのか、敵なのかだけでも教えろ!」


「……」


依然、答える気はなさそうだ。僕が光を強める。そしてその光は、無口な男の顔を映し出す。


「ハァハァ……」


突然後ろで荒い息の音が聞こえる。紫音さんが目を見開いて、苦しそうにしている。


「お前、何をした!」


「……」


「てめぇ、ふざけやがって!」


煌先輩が夢響の力を使う。巨大な炎の牙が無口な男へと襲いかかる。だか、それは簡単に打ち消されてしまう。黒い闇が盾を形成し、男を守った。


「闇を操るなんて、キャラがなってるじゃねぇか」


煌先輩が吐き捨てる。男がこちらへ近づいてくる。


「私が足止めします!」


冬華さんが能力を使い、辺りに冷気が走る。氷が地面や壁を走り、男の足や手を拘束する。


「ヤァ!」


葵が風で衝撃波を男へ与えようとする。が、やはり闇の盾で防がれ、冬華さんの氷まで粉々に砕かれてしまった。


「紫音さん、落ち着いて!」


僕と蓮は戦闘の役には立てそうもないので、紫音さんを落ち着かせようと必死だった。少しずつ、呼吸も安定してきて、落ち着きを取り戻しつつあるその時だった。


―ビューン―


とてつもない速さで男がこちらへ向かってくる。僕は咄嗟に目眩しのとてつもなく明るい光を男の目の前に作り出したが、男は全く気にすることなく襲いかかってくる。


闇で作られた剣が向かってくる。そしてそのとき勘づいた。男は確実に紫音さんを狙っている。


「ダメェー!」


葵が強風を男へ叩き込み、男のバランスが崩れる。


「オラァァァァ」


煌先輩の炎の牙がバランスを崩した男へ襲いかかる。男はそれを防ぐのに精一杯で、防いだ後、地面に身を転がした。


「トドメだ!」


煌先輩が攻撃を仕掛けようとした瞬間、辺りを闇が覆う。


「僕の光が効かない!」


緊張感が走り、冷や汗が肌をつたう。だが、敵に大きな動きがない。しばらくすると少しずつ闇が薄くなり、辺りが見渡せるようになるころには男はいなかった。


紫音さんはまだ息を荒くしている。頭を抱え、その顔には絶望が浮かんでみえる。


ほかの女性陣も彼女を慰め、落ち着かせようとしていた。


この世界に来て、初めて敵の殺意を感じた。7人目の夢幻交差者。あの男が守護者のいう敵なのだろう。あの男がいる限り、この世界だけでなく、現実世界も危うくなる気がしてたまらなかった…


* * *


このことがなければ未来は違ったのかもしれない


この時既に皆、この結末を迎えることを頭に過ぎらせていたかもしれない


そしてその結末は来てしまった


ただその過程までは誰も予想つかなかっただろう…


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