第2話 始まり
朝がやって来る。
夢の中での出来事が頭から離れない。もやもやした気持ちを抱えながら階段を降り、顔を洗う。水は冷たく、少しだけ不安を洗い流してくれた。
「午前7時をまわりました。天気予報です…」
いつもの時間に家を出たが、葵の姿は見えなかった。今日は予定でもあり、学校に早く行っているのだろう。
学校までの道を1人で歩いていると、つい余計なことを考えてしまう。守護者とかいうやつの姿が脳裏に浮かび、寒気を感じる。学校に着くと、いつもは感じないほどの安心感を得た。1人でいるのが不安で仕方がない。
下駄箱で靴を脱ぎ、自分の出席番号のところへ入れる。葵の下駄箱に目をやると靴が入れてあった。既に登校しているようだ。今すぐにでも話したいことはたくさんあったが、変に彼女のクラスに行くのは気が引ける。
教室で友達と話、いつも通りの生活をした。少し違うとすれば、授業中に寝なかったことだろうか。僕は既に、寝ることに対して抵抗を感じていた。
「―♪―」
放課後のチャイムがなる。教室を出て下駄箱へ向かうと、葵が待っていた。
「……」
彼女は何か心配そうな表情を浮かべている。いつも笑顔を絶やさない葵がこんな顔をしているので、とても心配になった。まあ、どんな問題があるのかはだいたい想像がつくけれど。
2人は無言で帰り道を歩いた。葵が喋る気配がないので、僕から昨日のことについて切り出した。
「昨日の夜、夢幻の守護者という存在に会った。」
「それって誰なの?」
「会ってないの?」
てっきり僕は、彼女もその存在に出会っていると思っていた。
「つまり、あの夢のことや能力について一切知らないの?」
葵は静かに頷く。
僕は昨日あった出来事を一通り話した。葵も混乱しているようだ。話の途中で何度も聞き返され、僕は丁寧に答えた。
「今日も同じような夢を見るのかな…」
「守護者の話だとそうなると思う」
「私にも能力があるのかな?遠藤くんが使えるその幻光みたいな…」
「きっとそうなるんじゃないかな」
気が付くと家の前まで来ていた。葵はまだ不安そうな表情をしている。出来ることなら助けてあげたいが、僕自身も同じ境遇で悩んでいるのだから助けようがない。
2人は家の前で別れた。他にこのことを知っている人が居ない中で、2人はお互いに今唯一頼れる人ではあったが、ずっと一緒にいるって訳にはいかないだろう。
* * *
玄関で靴を脱ぎ、階段を上がる。部屋に入り、鞄から勉強道具を出し、退屈な宿題を始める。退屈、退屈言っているが、僕はそれでも課題は真面目にやるし、成績も中の上くらいを維持している。
毎回のことだが、机に向かうと睡魔が襲う。今日は授業中に寝なかったり、家に着いて安心したのもあるだろう。眠気には勝てずにいつの間にか、僕の意識は夢の中へと引きづり込まれていった。
* * *
空は赤く染まり、カラスの声が聞こえる。時計は午後6時を指していた。かなり寝てしまった。
お腹はあまり空いていなかったけれど、時間も時間なので、夕飯を食べようとリビングに向かった。
リビングに着いたものの、そこには誰もいなく、キッチンでの料理の痕跡もない。
また夢の中だと判断していたけれど、念のため外に出てみることにした。人影のない通学路を歩き、学校の方へ向かって歩いた。
しばらく歩くと校門が見えてきた。ん!人影が見える!
「遠藤くんっ!」
「葵!」
「また夢だよね…」
やっぱり、この夢は葵と共有されているらしい。というか、共有以前にここでいう夢は個人が見ているものではなく、夢という名のひとつの世界だと考えると不思議ではない。
「この夢、私たち2人だけなのかな」
「夢幻の守護者によると他にもいるって言ってたけど…」
「……あそこに人がいる!」
突然、背後から誰かの声が聞こえて、振り向くと、4人の人影が見える。僕達に気づいて、こちらへ駆け寄ってくる。
男女2人ずつで、見たところ同じ学校の生徒のようだ。
「お前たち、何かこの現象について知ってるか?」
赤髪の男が話しかけてきた。とりあえず、僕と葵の他にも人がいることが分かり、少し安心した。お互いに状況把握をするため、僕は現時点で知っていることをすべて話した。
「そんなこと本当にあり得るのでしょうか?」
眼鏡をかけた、多分年下の少年が呟く。
「この世のあらゆる事象は物理法則に従って起こります。そんなおとぎ話を信じることはできません。」
少年はこんなのを絶対に信じるか!って言いたげな口調で知的なことを言っている。言いたいことは分からなくもない。実際、僕もまだ完全には理解できていない。というか、全く理解できてないっての!
「そんなこと言っても、今すぐどうにかなるわけじゃないだろ?」
「と。とりあえず、み、みんな自己紹介しようよ。」
紫の髪で、大きな瞳が特徴的な女子が言った。喋り方や雰囲気から察するに、かなりシャイな性格なのだろう。
「いいぜ、俺は
「この状況でそれ以上の説明は要らないよ。僕の名前は
赤髪の先輩は体格が良く、鋭い目つきをしていて最初は怖い印象を抱いたが、話しているとただの筋肉バカっぽい感じがした。
少年の方は真逆で、いかにも少年といった体つきに、知的な喋り方が印象的だった。
「わ、わたしの名前は
気の弱そうで、なかなか目を合わせてくれない。まさか、先輩だったとは。てっきり後輩かと思っていた。
「私は
おっとりとした優しい声だが、紫音さんと比べるとしっかりとしているように感じた。
「私は桜木葵。高校二年生です!みんなよろしくね!」
他に人が見つかって、少し安心したのか、葵もいつもの元気を取り戻しつつあった。
「僕は遠藤蒼月。同じく高校二年生だ。今のところこの世界にいるのはこれだけか…」
―守護者が言っていた敵というのも、この中の誰かなのだろうか―
そんなことが頭をよぎったが、今心配しても彼らに関する情報はなく、敵もすぐには攻撃してこないだろう。とりあえず、これからどうするかについて話し合おうことが今するべき最優先事項だと思った。
「これからどうするかだけど…」
「皆集まったみたいだな…」
すっかり暗くなった空に、ひとつの光が浮かび上がる。
「夢幻の守護者!」
「あれが…」
6人の視線が光に向けられる。
「お前たちにはこれから一緒に行動してもらう。夢と現実の世界のバランスを保つのだ。」
「いきなり言われても、何をすればいいんだ!」
僕はいつものように説明のない守護者に対して強気になっていた。僕達を厄介事に巻き込んでおきながら丁寧な説明もなしかよ!
「この夢の世界も今は現実の世界とそう大差はないだろう。これはお前たちの想像によるものだ。この世界は夢響の力を使い、変化をもたらすことができる。今は無意識にその力で現実世界に似た風景が創り出されているだけだ」
「……」
女性陣はかなり心配そうだ。あの赤髪の先輩、煌さんですら真剣な表情を浮かべていた。
「この世界と現実世界のバランスを保つために、夢響は存在し、そのエネルギーを制御しているコアが3つある。それらのコアに異常が起きている。お前たちにはその修復をしてもらいたいのだ」
みんな、不安な顔を浮かべている。僕もそうだが、質問したいことがたくさんあるだろう。それを感じ取ったのだろうか、守護者は続けた。
「お前たちは夢響の力を一部借りることができる。その力を使って修復に向かうのだ。力の使い方は説明しなくても分かるはずだ。夢響の力には今までの夢幻交差者たちの記憶も刻まれているからだ」
「なぜ僕たちがそんなことをしなければならないんだ!」
「お前たちだけがこの世界、そしてお前たち自身の世界を守れるのだ。もしもお前たちがこの使命に従わなければ、お前たちの世界は消滅するだろう…」
「おい!待て!」
僕達の質問を受け付けずに、光は天に向かって行くように消えていった。
* * *
ここから、彼らの世界を掛けた冒険が始まった。
そして裏では、やつの計画も着々と進んでいた…
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