第7話 逆バーナム効果
「ところでやっぱり、よく分からないんだけど、バラが置かれていたというのはどういうことなの? バラということは、男性同士の同性愛、ライトノベルやマンガの世界では、ボーイズラブというのよね?」
とゆいがいうと、
「そういうことになるわね。昔だったら衆道とか、畜生道などと言われていた。いわりゅる人間以下の、家畜などが、本能でするもののようなイメージになるのかしらね。でも、実際に昔の男性には多かったというわよね。特に戦国時代の戦国大名などは、大体男色だったと言われているようだけど」
「でも、そのわりには、殿様には側室なんかがいて、贅沢なものよね」
というゆいの意見だが、
「だって、男性に子供は産めないんだから、結局は、世継ぎを生んでもらうために、結婚して、しかも、正室に子供ができなければ、側室の子供を後継ぎにするというやり方しかないでしょう? 秀吉だって、正室に子供がなかったので、側室の茶々が子供を産むことになったでしょう? でも面白いのよね。男色の多い中で秀吉は部類の女好き。それで正室に子供ができないというのも、変な話よね」
といちかは言った。
「でも、本当の子供ではないという話もあったでしょう? 秀頼の前に一人子供がいたけど、若くして死んで、子供はもう難しいかもと言われた年になったから生まれたのが秀頼だったわけで、しかも身体が小さかった秀吉から、身体の大きな秀頼が生まれたということで、いろいろな憶測もあったのでしょうね。大野治長と淀との間の子供だというウワサもあったからね。どこまでが本当なのか分からないけど、秀吉が豊臣家の跡取りが欲しかったのは間違いないわけで、それを思えば、治長に淀を抱かせるというのもありなんじゃないかと思うのよ。ただ、メンツの意味もあって、それを口にするのは、ご法度だったんだけどね」
と、ゆいがいうと、
「それはちょっと違うかも? もし、それを口にされて、秀頼が後継者ではないということになると、また勢力争いの戦になる、それを裂けようとしたんじゃないかしら?」
と、いちかはいう。
二人は結構歴史が好きだった。
いちかが会社に在籍中は、よく歴史の話に花を咲かせたものだった。
戦国時代を中心に幕末や、鎌倉初期など、カフェで、何時間も白熱した会話をしていたのが懐かしかった。
それなのに、ゆいは、風俗的、世俗的な話には、結構疎かったりする。だからと言って、歴史の裏話をまったく知らないというわけではないのだ。羞恥な話には最初から首を突っ込まない性格で、それだけ潔癖症だとも言えるだろう。
ゆいが歴史を好きになったのは、中学時代。最初から脅威があったのだ、古墳時代などの出土品であったり、古事記などの神話の話、さらに、聖徳太子から、大化の改新に欠けての日本の国というものの形ができかかってくる時の歴史が、それまでの教科とは違った一種のファンタジーに感じられ、次第に興味をそそられるのであった。
中学に入ると、小学生の頃のように、すべてを社会科という括りではなく、地理、歴史。しかもそれぞれに、日本と世界で区切られている、
しかし、歴史の場合は、日本史をやっていても、世界史の最低限の歴史を知っていないと、理解できないこともあるのだった。
特に宗教がらみになると、世界史を無視することはできない。仏教、キリスト教などは、日本の文化に入り込み、日本n神話がそれを受け付けないことで、戦争になったり、追放による虐殺などというものもあった。
江戸時代などは顕著であり、鎖国をしている手前、キリスト教の教えは、受け入れられるものではないのであった。
ただ、これは日本に限ったことではない。過去には、十字軍のような宗教戦争であったり、大航海時代と呼ばれるその時代には、航海することによって見つけた土地の原住民を奴隷にしたり、自国に連れて帰ったりして、その場所を植民地化していった。
そこに、文明国家が存在すれば、キリスト教を布教させ、国内を混乱させておいて、それを口実に、その土地を占領し、植民地化してしまう。移住している人を守るという、
「居留民保護のため」
という軍隊派遣で、一気に鎮圧させ、既成事実として、暫定国家を築き。そこを実質統治することになった。
それが帝国主義のあからさまな植民地政策で、列強と呼ばれる国は争って、当南ア味やの国々を占領していき、自国の植民地として、その地に定着し、傀儡政権を作って、君臨するのだった。不平等条約を結び、貿易も完全な不公平の元に成り立っている。植民地経営なのだから、当たり前のことである。
江戸時代に家光が鎖国政策を取ったのは、日本人に諸外国のことを知られないようにするという目的と、キリスト教がまたしても、布教活動をしないようにしたためであろう。
諸外国のやり方は、まず、上陸した国に、キリスト教の宣教師を送り込み、布教活動させることで、その国の宗教との間に紛争をもたらし、混乱している隙をついて、軍隊を送り込み、強引に鎮圧し、関税や、裁判両事件などの不平等な内容の条約を結ばせ、さらに、そこを拠点に、別の地区を植民地化するために動いていたのだ。
東南アジアが狙われ、中国が食い物にされたことで、日本も恐怖に感じていたことだろう。
幕末の動乱がそのまま、朝鮮半島の動乱となり、日本と清国の干渉により、日清戦争が勃発し、朝鮮もいずれは日本に併合されることになる。
戦後日本が奇跡的な復興ができたのも、
「日本は神の国だから、神風が吹いてくれる」
と言っていたのが、戦後に限っていえば、的中したようだ。
もっとも、戦前の日本も決して弱かったわけではない。薄氷の勝利ではあったが、日露戦争で負けなかったことも、ある意味奇跡だといえるだろう。
「こうでもしないと勝ち目はない」
というシナリオを多大な犠牲があったことに目を瞑ると、勝ち目の通りになったのだから、これも一種の、
「神風が吹いた」
と言えるのではないだろうか。
元々は、鎌倉時代の、モンゴル帝国が日本侵略計画の中、台風と言われる神風で、相手が全滅したという言い伝えからきているのだろうが、まさにいつわりではあないと言えるのではないだろうか。
ゆいも、いちかも二人とも歴史が好きで、一度嵌ってしまうと、夜も寝ないで話をするくらいのことは今に始まったことではなかった。最初、そんなに仲がよかったというわけではない二人の距離が一気に縮まったのは、お互いに歴史の話を相手ができるということに気づいたからだった。
「ゆいは、そういう歴史の話ができる相手というのは、私だけなの?」
と聞くと、
「いいえ、他にもいるわ。その人も女性なんだけどね」
と言った。
「ところで、あなたは今お付き合いしている人がいるようなことを言っていたけど、その人は、浮気をしているとかいうのはあるの?」
と訊かれて、
「それが分からないのよ、デートの時も彼が主導権を握っていて、私は何もすることがないのよ。だからせめてお弁当を作ったりとか、そういう感じかしらね。昔でいう、男の仕事と女の仕事というところに、厳格な線のようなものを設けているような感じなのよ」
とゆいがいうと、
「じゃあ、その人は完全に、自分が仕切っているという感じなのかしら? いわゆる結婚すれば、亭主関白になるような感じなのね」
と、いちかが聞いた。
「そうね、女はあまり口出すなという方なのかも知れない。だから、少しでも気の強い女性であれば、きっとついていけないんじゃないかって思うのうp」
とゆいが言ったが、それを聞いていちかは、少し意外だった。
――何言ってるのよ。あなたは十分に気が強い女よ。でもそれなのに、ついていっているということは、ゆいには何かの力が働いているのかも知れないわね――
と考えていた。
ということは、気が強いゆいのその性格を分かっていて、逆に利用して、彼女が自分のことを従順だと思わせるように仕向けたとすれば、この男はかなりのものだ、
計算高いというか、女性の心を操るのが天才的だと言えるのではないだろうか。
そういう男であれば、他に女がいても、ゆいに、そのことを悟らせないようにするくらいのことは簡単ではないだろうか。例えば、自分に対して別の意味での疑惑を持たせるとかである。それは他に女がいるというほど大げさなものではないが、少しずつでも気になっていることが自分の中で、どんどん膨らんでくれば、それを抑えようとすることで、他のことは考えないようになる。特にゆいのように、何か一つのことに集中すると、他のことが見えなくなるような女性には効果的ではないだろうか。
主導権を握っていると、男は気が大きくなって、女の心境の変化であったり、自分が掌握しているので、その女に知り得るはずのないことであっても、知ることになるということに、往々にして気付かないものだ。
「それにしても、バラというのは、私が考える二、男色しか考えられないのよね。それを何が目的でその男があなたに何を教えようとしているのか? 付き合っている男が、男色とでもいいたいのかしらね?」
といちかはいった。
「彼を見ている限りではそんな素振りはないわ。セックスも普通だし、嫌がっている様子もない、そもそも、嫌がっていたら、私と付き合ったりはしないと思うの」
というと、
「でも、男というのは多少なりとも、変態的なところがあってしかるべきだと思うのよ。私の経験からのことで恐縮なんだけど、そのあたりもお互いに曝け出して、一皮むけないと、結局はうまくいかないものだと思うのよ。失礼ないい方だけど、男色の人って、男色のカモフラージュで結婚するっていうじゃない。それに、女性が苦手だから、男色に走るというわけでなければ、両刀なんじゃないかって思うの。だけど、普通の女性だったら、男色ということがバレてしまう。それが怖くて、この人んあら騙せると思った人と付き合っているとすれば、理屈としては分かる気がするわ」
といちかは言ってのけた。
「ということは、私が相手の本性を見抜けないほどの女だということになるの?」
と訝し気にゆいは言った。
「あなたが、いい悪いというのではなくて、その男にとって、ゆいが都合のいい女ではないかということを言っているのよ」
と、まで言われると、さすがにゆいも、
「どうしてそこまで言われなければいけないの」
と少し興奮気味になっている。
そこをすかさず、いちかは、
「じゃあ、ゆいは、その人のどこが好きだと思っているの?」
と訊かれて、考えてみた。
――あれ?
さっきまでであれば、もし、この質問をされたら、どう答えるかという答えを用意していたはずであった。
それなのに、今の状態でこの質問をされると、何と答えていいのか分からなくなってしまっていた。
――どこが好きって、優しいところだわ――
と思い、
「優しいところ」
と答えると、
「うん、優しい。それから?」
「いつも、自分に自信を持っていて、間違ったことはいっていないこと」
という。
「なるほどね。あなたは、今私の質問に、どう答えていいのか分からない状態になったのよね。たぶん、私が彼の悪口を言うまでは答えを用意していたと思うの。だって、私はさっき、恥ずかしげもなく、赤裸々な話をしたでしょう? それを聞いて、あなたの中で、なるほどと思いながら、きっと彼との比較をしたはずなのよ。その時に出てきたことが、たぶん、彼を好きになった理由だと思うんだけど、私がマイナスな思考ばかりを植え付けたおかげで、あなたは分からなくなってしまった。私もそれは分かっていたわ。だから、今の状態も感情も分かっていないあなたに、直接攻撃をしたらどうなるかということを考えたの。すると、私の思った通りの答えが返ってきたことで、私は確信を得たわ」
と言われて、ゆいは、まるで白洲の上でござを引かれて、後ろ手に縛られた状態で、役人に左右から首を棒で抑えられた、奉行所の吟味を受けているような感覚に陥っていたのだ。
「確信ってどういうことなの?」
と聞くと、
「「ゆいは、バーナム効果というのを聞いたことがあるかしら?」
というではないか?
「バーナム効果?」
「ええ、これは、一種の洗脳、つまりマインドコントロールの一種なんだけど、この場合はちょっと逆の状態なので、逆バーナムとでもいえばいいかしら?」
と言って、微妙にいちかの表情が歪んだが、その顔には、いかにもしてやったりの表情が浮かんでいた。
「バーナム効果というのは、一体どういうものなの?」
と聞かれたいちかは、
「バーナム効果というのは、星占いなど個人の性格が判断すかのような準部行動がともないことで、誰にでも該当するような曖昧で一般的な性格をあらわす奇術を、自分、もしくは自分が属する特定の特徴をもつ団体だけに当て嵌める性格だと捉えてしまう心理学の現象なのよ」
と、スマホで検索した内容を読み上げた。
「それは何? それによって、相手に当たり前のことを言っているのに、まるで自分にだけ言っているようなことであり、的中していると思わせて、占い師が相手の信頼を勝ち取るということになるのかしら? 要するに、占い師が得をするための、心理的な技法ということになるの?」
とゆいが聞くと、
「そうね。だから、マインドコントロールなのよ。相手にそう信じ込ませて、自分がマウントを取ったり、相手を服従させた李する時に使うものなのかお知れないわね」
といちかは言った。
「なるほど、だとすれば、これは占いというだけではなく、それ以外の人間関係において、ある意味すべての場合に言えることよね。さっきのマウントを取るという意味だけでも、相当な範囲が考えられるからね。本人が意識していなくても、相手に対してマウントと取っているのは、こういうバーナム効果が働いているのかも知れない。そういう意味で、苛めなどの問題も、ここから出発しているのかも知れないわ」
とゆいがいうと、
「それはそうかも知れないわね。でも、もっと切実なところで、男女関係のマウントもかなりの影響力を持ってくると思うのよ。特にヒモなんかの場合にも言えるんじゃないかしら? 本人は、従順なつもりでいるんだけど、その言葉を聞いて、女は、『この人がいうんだから』ということで、すべてそのヒモのいうことであれば、すべて信じてしまうということがあるでしょう? これって、最初に何らかの洗脳があって、女はもう男の言葉に従うしかないことになるかも知れないのよ。しかも、その男は自分が洗脳しているということを分かっていない。そもそも、バーナム効果などという意識もないでしょうからね。でも、中にはヒモのプロのような男がいれば、簡単にオンナは落ちてしまう。何しろ男には自分に落ちやすいという女を見つけることにかけても、長けているはずなので、ヒモで食っている連中だっているわけだから、そんな彼らの生命線は、マインドコントロール。そのためには、バーナム効果くらいは基礎知識として覚えているはずで、常套手段にしていることでしょうね」
といちかは言った。
「ということであれば、詐欺にでも何でも使えるということね?」
とゆいがいうと、
「占い師の中にはそういう輩がいたりするじゃない。占いで、例えば誰にでも当てはまるような話をして、相手は、当たってると一度でも感動すれば、後は、畳みかけるように、マニュアル化されたことをいい続けるのよ。たとえば、あなたは、昔ネコを飼っていて、死んでしまった時に、自分が何か悪いことでもしたんじゃないかと思って、後悔しているとかなんとかね。相手が女性だったら、ペットで猫を飼っていることは多いでしょう。それこそ、猫かわいがりしていたでしょうから、小学生の頃のような子供だったら、猫の寿命なんて知らないだろうし、猫が弱ってきたとしても、気付かないわよね。それを強引に今までと一緒に、猫の年齢に合わないような無茶な遊び方をすれば、寿命を縮めたかも知れない。それで猫が死んでしまったとすればどうかしら? その女の子は、自分が無茶したので殺したと思うんじゃないかしら? 特に弱ってきた時は、猫はご主人様に助けを求めるような目をしているとしたら、そのことに気づいてあげられなかったという意識を、猫の目を思い出すたびに、持つようになって、トラウマになるでしょうね、そういう人って結構いるのよ。特に子供の頃だったらね。もちろん、大なり小なりの違いはあるでしょうけど、要するに、この人は、誰にでも当てはまることを言って、その人のトラウマを言い当てたと本人に思わせるのだから、その時点で、すでにマインドコントロールされているわけよ。そうなってしまうと、もう、占ってもらっている人は、その人のいうことであれば、何でも聞いてしまうでしょうね。二束三文の石だったり、印鑑などを、十万近くの値段で購入することだって、その人からすれば、もったいないと思わせないんだから、すごいわよね。何と言っても、その人が自分の意志で買ったんだから、詐欺として立件することは難しいでしょうね。ただ、これらの事例が増えてきて、被害者側が気付いて、集団訴訟でもすれば別だけど、マインドコントロールに罹っている人は、そう簡単に気付くわけはない。結局、占い師のやりたい放題ということになるのよね」
といちかは言った。
「でも、占い師の中には、そんな人ばかりではないでしょう? 本当に真面目に占っている人もいるんでしょうね」
とゆいがいうと、
「それはそうでしょうね。皆が皆、そんなひどい人ばかりではないでしょうからね。そういう意味でも、そういう詐欺のような輩は、真面目にやっている人から見ても、大迷惑なのよ。でも、なかなか立証することは難しいし、被害者自身が、被害に遭っていないと思っているわけだから、厄介なのよ」
といちかがいうと、
「そういえば、昔の話として聞いたことがあったんだけど、世紀末伝説というのがあって、ある宗教に入信している人たちは、その世紀末伝説を真剣に信じていて、教祖から、お布施をすれば、あの世に行った時に、幸せになれるということで、信者なら、皆の全財産をお布施させることに成功した教祖が、訴えられていたわね。何しろ、世界が滅亡すると言われた時、世界では何も起こらず、次の日から、また普通の生活が始まるわけだから、お金を出した人たちは、一文無しになって、この世に放り出された形になったのよ。教祖は確か夜逃げしたんじゃなかったかな? 本当に酷い話で笑ってはいけないんだろうけど、私はその話を訊いた時、本当にこんなバカな話に騙される人がいるんだって、心の中で笑っていたのを思い出したわ。あの時は本当に他人事だったんだけど、これこそが、本当のマインドコントロールなんでしょうね。何と言っても、人の気持ちに入り込んで、騙すわけだからね」
とゆいは言った。
「まさしくその通りなのよ。でも、何が怖いのかと言って、人は何も信じずには生きていけないでしょう? 必ず何かを信じているはず。少なくとも自分は信じていると思うのよ。でも、こういう話が多いと、次第に人を信用できなくなってしまう。信用すると騙されるという構図が頭の中に出来上がるからね。でもね、人よりも自分のことが信じられないと思う人もたくさんいるのよ。それは自分に自信が持てないという人ね。だから、マインドコントロールにも引っかかりやすい。皆、自分が信じられないと思っているから、誰でもいいから、自分のことを信じてくれたり、自分の性格を分かってくれたり、自分を肯定してくれると、絶対にその人に服従しようと思ってしまうのよ。自分は信じられないけど、この人なら信用できるってね。そういう意味での詐欺を行う人もいるようだけど、これが結構たちが悪くて、しかも、厄介な如」
と、いちかがいうと、
「どうしてなの?」
とゆいが質問し、
「だって、占い師としての職業でもないし、友達としてアドバイスをしていると言えば、騙しているわけではないという風に見えるわよね。騙されている方も、騙されているなどと思っているわけでもないし、友達などが、あの子騙されていると思って、下手に忠告しようものなら、自分が幸運を掴もうとしているのを邪魔するのか、嫉妬しているだけではないかと却って、責められるのは分かっているから、どうしようもないよね。マインドコントロールというのは本当に怖いし、そのための常套手段が、人間の心理を裏側から見ているようなバーナム効果というのは、相当の威力があるんでしょうね」
と、いちかがいう。
「今のお話で、バーナム効果や、マインドコントロールということは分かったような気がするんだけど、さっき話していた、逆バーナム効果というのはどういうことなの?」
と、ゆいに聞かれ、
「ああ、あれはね。さっきあなたが、少し私に対して嫌な思いをしたでしょう? 私があなたの傷をほじくり返しているかのようないい方をしたからね。あなたにとっては、今まで信じていた人に対して。怪しいと思うようになってきただけど、そう思った矢先に、私がズケズケとあなたの領域に入り込んで行って、あなたはそれが訝しかったはずよ。私が私のことで悩んでいるのに、そんなにズケズケと入り込んで、しかも悪口をいうなんてと思ったでしょうね。そして、悪口を言えるとすれば、私だけのはずなのにと思ったはず。それも私には想定範囲内のこと。私はそこで、あなたに対して遠慮なく、あなたの傷口を探しあて、そこに、塩を塗るようなマネをした。あなたは、痛みから、平静さをうしなって、とにかく私に負けないように言い訳しなければいけないというジレンマに陥ったのよね。そして、私が繰り出すマシンガンを、ひとつ残らず打ち返すことだけに集中した。どんな言葉でもいいので、何とか言い返すということだけでもできればいいと思ったことで、あなたの中で、普段から感じている誰にでも当てはまるような言葉が無意識に口をついて出てきたというわけなの。つまり、人は、誰でも自分が人と同じであることに安心しているのよ、人と違うと言われると、普通だったら嫌だって思うじゃない。それは今までそういう教育を受けてきたからなのよ。特に親からの世間体を気にすることなんかがいい例でしょう? ご近所が見てるんだから、恥ずかしい恰好しないでよ、などというのは、あれこそ、一番のマインドコントロールなのよ。皆、大なり小なり、自分の中にバーナム効果を持っているということ、だから心理学の現象として、学説が成立しているんじゃない」
と、いちかは言った。
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