第5話 親友の主婦

「もう一つ気になるのがですね。バラとスズランなんですが、何か意味があるのかな? と思ってですね。嫌がらせとはいえ、バラとスズランというのは、組み合わせとしては不自然に思うんですよ。例えば、バラかスズランのどちらかをあなたが好きで、もう一つが犯人と目される人が好きなものだということも言えるかも知れませんね。それとも、その花自体に何か言葉としての意味があるかということもありますけどね」

 と刑事さんは言った。

「私は、バラには興味があります。私は生れが六月なので、バラというのは、六月の誕生花でもあるんですよ。それで好きになったというわけです」

 というと、

「じゃあスズランは?」

 と訊かれて、正直すぐにはピンとこなかった。

 だが、何か頭に引っかかるものがあったのだが、そのことに気が付いたのは、それからしばらくしてからのことだった。

 刑事さんから、この二つについて少し考えてみればいいという助言を貰って、ゆいは、そのまま警察署を後にした。

 ゆいは、そのまま帰るのが怖くなって、友達に連絡し、話を訊いてもらうことにした。

 その友達というのは、ゆいが勤めている会社の先輩だったが、二年前に結婚し、警察署の近くのマンションに住んでいる奥さんだった、

 仕事は寿退社ということになり、子供はまだなので、余裕のある時間、、スーパーにバイトに出るくらいのものであった。

 さっそく連絡すると、

「そう、近くまで来ているのであれば、寄って行けばいい」

 ということで、とりあえず、先輩のところに行ってみるころにした。

 先輩は名前を永瀬いちかと言った。二人はお互いの名前を下の名前で呼び合うほど気心が知れていて、今までにも何度もお互いの恋愛相談に乗ってきた。

 今でこそ、幸せな新婚生活を送っているいちかであったが、結婚前には結構いろいろあって、それは、旦那にウワサが結構あったことがその理由だった。

 実はその旦那は、ゆいの会社に勤めている人であり、ゆいとは部署がちがっていたので、普段はあまり顔を合わすことはない。旦那は営業ということもあり、ほとんど事務所にもいない。会社で顔を合わすことは稀だった。

 いちかのマンションは、警察署から歩いてもいけるところで、ゆいもせっかく行くのだからと、近くの洋菓子屋さんでケーキを買って、それを持っていくことにした。

 普通にいちごのショートケーキと、プリンを買った。その店の人気商品はプリンであり、以前、いちかが、まだ在職中の外出時、帰社する時の手土産にと、皆にそのプリンを買ってきてくれたことがあったのを思い出したのだ。

 いちかは、その時すでに婚約していて、実に楽しそうだった。だが、それは表向きのことで、実際にはいろいろ悩みを抱えていたのである。

 その悩みであるが、最初の頃はいちかが一人で抱え込んでいたのだが、さすがに見かねたゆいが、声を掛けた。

「大丈夫であうか? いちか先輩、最近顔色がよくないようですけど」

 他の人の目は騙せても、この自分の目はごまかせないとでも言いたげな真剣な目で、ゆいはいちかを凝視した。

 さすがにそれにはいちかもビックリしたようで、その時の目力もさることながら、空元気を張っていたことに気づかれるとは思っていなかった。

 いや、本当は虚勢もいちかのSOSのサインだったのかも知れない。いちかにとって、ゆいでなくても、誰でもいいから助けてほしいという思いはあっただろう。だが、でくることなら、相手はゆいがいいと思っていたのだった。

「いったい、どうしたというんですか? まもなく結婚しようという人がそんな雰囲気、見ていられないんですよ」

 と言って、ゆいはまるで自分のことのように、いちかを気遣っていた。

 ただ、この時のゆいの中に、

「マウントを取りたい」

 という気持ちがまったくなかったと言えなくもない。

 そのことは後になって自覚もするようになった。いちかにとってゆいは、ある意味、絶対的な優劣に値する相手で、いちかが、劣等感を抱いてしまうほどになっていた。

 だが、それはいちかがそれだけ悩みを抱えているということで、いちかとすれば、

「藁をも掴む」

 という思いがあったに違いない。

 話を訊いてみると、やはり、いちかの悩みは婚約者のことであった。

 婚約者のことは、実はゆいの耳にも少しは入ってきていた。ゆいというのは、思ったよりも会社の中で、情報網を持っているようで、いろいろなウワサを耳にしているようだ。

 ただ、いちかが、どうしてそんなウワサを知ったのかがよく分からなかったが、いちかというのは、自分の仲間内であれば、非常な気遣いのできる人で、それについての信頼も厚いのだが、仲間内から少しでも外に出れば、まったくコミュ力が定価してしまう。悪く言えば、

「内弁慶」

 と言っていいのかも知れない。

 仲間内では、リーダーであったり、姉御肌とも取れるような切符の良さもあったりした。いちかは、そんな状態で、仲間内のマウントを取っていた。だから、仲間に対しては、絶対の信頼を持っていた。その仲間というのはゆいを含めて、四人だったのだが、いちかもゆいも、その仲間内の一人が、性悪女であることに気づいていなかったのだ。

 そのオンナは、日和見的なところがあり、

「卑怯なコウモリ」

 と、揶揄する人もいるくらいだったが、それを揶揄しているのが、仲間の外の人間なので、いちかもゆいも意識していなかった。

 そのオンナが、いちかに、あることないこと吹き込んだようだ、

 もちろん、それは婚約者のことであり、元気にはしていたが、少しマリッジブルーになりかけていたいちかに、追い打ちをかけるような結果になってしまっていた。

 いちかは、普段であれば、そんなウワサは気にしなかっただろう。ただ、彼女は仲間内であるということ。そしていちかが仲間内の言葉であれば、ほぼ信用してしまうほど、内弁慶であるということ。

 いちかは、自分には仲間内に対して、絶対的なマウントが存在していると思い込んでいた。

 確かに、そのマウントは、いちかにとって大きなもので、普段の元気の原動力であった。

 しかし、しょせんマウントなどというものは、人間社会では、それほど長く続けられるものではない。特に日本のように民主主義国家としての教育を受けている人間は、

「自分たちは自由であり、何人からも束縛されない」

 と思っている以上、必要以上なマウントは、仲たがいの原因になったり、相手が反旗を翻してきても、その本心に気づかないというのが本当であろう。

 ゆいは、そんな中で唯一、いちかが退職するまでずっと維持できた唯一の相手だった。

 いちかにあることないこと吹き込んだと言ったが、どこなでが本当で、どこまでがウソなのか分からない。

 ウソだと思うことでも、実際には本当だったりする。もし、ゆいも同じことをいちかと一緒に聞いていたら、さすがに、ゆいにはどれが本当なのか分かったかも知れない。

 それほど、いちかは彼のことを好きだったし、それゆえの悩みであった。気の毒といえば気の毒であるが、いちかという女性の元々の性格が、

「躁鬱の気があって、二重人格なところがあった」

 と、いうことである。

 二重人格だから、躁鬱に見えるのかも知れないが、いつもいちかを見つめているゆいにとっては、彼女に限って、

「二重人格と、躁鬱症は関係ない」

 と言えるのではないかと感じていた。

 それはm躁鬱になった時の性格の開きがかなりあり、ゆいを驚かせたほどだ。だからと言っていちかから離れようとは思わない。逆に引き寄せられるような気がした。それでもいちかから逃げだろうとしなかったのは、

「私と似たところがあるのかも知れない」

 と感じたことだ。

 しかも似ているところは、二重人格性を持っているとこrで、ただ、ゆいは自分が二重人格だと思っているが、もう一つの性格がどのようなものなのか分からない。まるでジキル博士が薬を飲んで、まったく別の人格を持ったハイド氏という悪魔のような男を作り出したのに、当の本人が分かっていないかのようである。

 そんなことを考えながら、ケーキを買って、いちかのマンションまでやってきて、オートロックのブザーを推すと、

「待ってたわよ」

 という懐かしい声が聞こえて、オートロックが解除された。

 エレベータで三階のいちかの部屋にやってきて、扉を開けると、いちかが、待ちわびたかのように抱きついてきたのには、さすがのゆいもビックリした。

「どうしたんですか? いちかさん」

 と聞くと、

「最近、少し体調を崩していて、パートも少し休んでいるので、人に会うこともなくて寂しかったのよ。ゆいが来てくれて本当に嬉しいわ」

 というと、ゆいも、いちかに抱きつかれたことで、数年前を思い出し、嬉しくなっていたのだ。

「でも、相変わらずで、私はホッとしていますよ」

 と言ったのは、躁鬱症の気があるいちかの今が躁状態にあるということが分かったからだ。

「ありがとう。体調が悪いと言っても、あまり動き回らなければいいだけで、この部屋の中で動き回るくらいは大丈夫なのよ。うん、大丈夫」

 と言って、自分にいい聞かせていた。

 これこそ、相変わらずというべきで、いちかにはそういうところがあった。

 だが、ゆいの記憶が正しければ、そういう態度を取る時のいちかは、決して平穏な性格の時ではないということだ。

――なるべく、刺激しないようにしよう――

 と、ゆいは感じたのだった。

 それを知ったのは、いちかが婚約をして、その婚約中に、例の悪い女に、いろいろ吹き込まれた時だった。

 あの時は、いちかがゆいに相談に乗ってもらっていたのだが、そのウワサの中で、酷いと思ったのは、

「あなたの婚約者は、実は私と一時期付き合っていたのよ。と言っても結婚しようとは思わなかったけどね。どうしてだか分かる?」

 と訊かれて、

「いいえ、分からないわ」

 と、訝しく答えると、

「それはね。あの男が変態だって気付いたからなのよ」

 というではないか。

「変態ってどういうことよ」

 とさすがに、怒りがこみあげてきたいちかは、その悪い女に食ってかかったが、そのオンナはまったく動じなかった。

 それどころが、不敵な笑みを浮かべて、

「あなたは知らないでしょうけど、あの男には男色の気があるのよ。つまり、ホモっていうこと。しかも、女にも興味があるというから、いわゆる二刀流とでもいえばいいのかしら? 私も最初は分からなかったんだけど、どうやら、私をオンナという目で見ていないのではないかと思うと、だんだん辻褄が合ってきたの。この人は衆道だってね」

 というではないか。

「そ、そんな……」

 さすがにそれを聞いて、いちかはだいぶ打ちのめされたようだった。

 そのオンナはその言葉を置き土産にして、自分たちの仲間内から去って行った。ひょっとすると、この女は、早い段階からこの仲間内から抜け出したいと思っていたのかも知れない。

 その機会をうかがっている間に見つけた婚約者の秘密、これこそが、この女にとっての、「リーサルウエポンだったに違いない」

 その時、いちかは自分が打ちのめされたことに気づいた。

 だが、悪女が自分の前からいなくなったのは、悪女にとっては痛恨のミスであり、いちかにとっては幸いした。

 いちかは、躁鬱症なのだ。ちょうどショックの頂点が、鬱状態の底辺だったことで、

「それ以上、沈むことはない」

 と思ったのだろう。

 いちかは、次第に気が楽になっていた。そして、それ以上彼女を奈落の底に叩き落す人はいなかった。

 悪い女は、そこまでいちかの性格を知らなかった。策を弄するために必要ないちかの性格を把握することはできていたが、その奥にあるいちかの強さを把握することはできなかった。

 もっと奥を知っていればいちかが、底辺からの立ち直りは早いということを分かっていたであろう。しかし、そんな彼女の奥深くまでの性格を、ゆいだって知らないのだ。

 特に、ここ二年ほど連絡も取っていなかったのだから、それも当然と言えよう。

 いちかの旦那が、本当に男色なのかどうか、いちかにも分かっていない。いちかが女性であるからそれは当然だ。旦那はあくまでも男の前でだけ、自分が男色であることを洗わずのであって、鏡に、反射せずに、透き通った状態で、先を見るようにできないだろうか? と考えるようなものだった。

 いちかは、その時のことを、ゆいに話していた。ゆいとしても、

「そんな根も葉もないウワサを信じる必要なんかないわよ。あの人はハッキリと悪意を持ってあなたを攻撃してきたわけでしょう? だったら、それをまともに受け取ることはないのよ。婚約者の人を信じるしかないと私は思うわよ」

 と言って、慰めた。

 その慰めが、躁鬱症の底辺にいたいちかにどこまで通用するのか、ハッキリ分かったわけではない。しかし、慰めるしかできないゆいは、そんな時、自分の力不足を体感していたのだ。

 だが、いちかとすれば、ほんの少しでも慰めがあれば、それをきっかけにして立ち直ることのできるだけの力を持っていた。

 実際にいちかはそれからしばらくして立ち直りを見せ、一機に結婚まで駆け抜けたのだ。ちょうどその時は、躁状態の頂点にいた頃だったので、その時の感情が一番表に出てきたことで、旦那に対しての疑惑が解消されてしまったというのは、ある意味、躁鬱症である彼女ならではのことだと言えるであろう。

 寿退社までは結構早く、人によっては、

「そんなに会社が嫌だったのかしら?」

 という人や、

「彼女だったら、すぐにでも子供を作って、ママになるんだろうな」

 といういくつかの憶測が飛び交ったが、ゆいには、そのどれもが信憑性のないことであるということを分かっていた。

 しかし、それをあからさまに否定することはしなかった。本当であれば、好きな人が誹謗中傷されているのであれば、自分から庇ってあげるべきなのだろうが、今の世の中、下手に助太刀して、話をややこしくしてしまわないとも限らない。それが怖かったゆいであった。

「ねえ、ゆいは、私のことをどう思ってる?」

 と聞かれたことがあった。

「どう思ってるっていうか、私に似ているところがあると思っているわ」

 というと、いちかはそれを聞いて、少し黙り込んでしまったが、それ以上何も言おうとしなかった。

 いちかは、ゆいの性格を分かっているつもりだったので、それこそ、鏡に映った自分を見るようである。それはある意味、すべてが見えているように思うが、逆に絶対に見えない場所もあるのだ。

 それは背中であって、鏡に映った自分を見ようとすると、身体の向きを変えて、背中を写せばいいのだが、正面からの自分を今度は見失ってしまう。だから、自分であっても、いや自分だからこそ、自分のすべてを見ることはできないのだ。

 そういう意味で、もう一人、自分と同じような人が目の前にいれば、両方を見ることができる。つまり、もう一つの性格は、もう一人の自分に似た性格の持ち主と一緒に見れば、自分に似た性格を見ることはできるのであった。

 まったく一緒とはいいがたいが、まったく見えていないよりもマシではないかと思うのだ。

 もちろん、自分の勘違いであったり、最後の詰めを誤ったりする場合は論外であるが、自分で見える部分をすべて見るということであれば、曖昧な部分は想像力に任せればいいのだった。

 そのために、想像力を掻き立てておくというのは必要なことで、いちかも、ゆいも、

「それは日頃から無意識にできていることに違いない」

 と感じているのだった。

 いちかは、そんな自分をどう感じているのか、一度聞いてみたくもあったのだ。

 いちかは、あの時の、悪い女の戯言を忘れてしまったわけではない。しかし、変に意識する必要もなく、意識さえしなければ、彼との結婚生活は悪いものではなかった。そう感じるようになってからのいちかは、専業主婦になってよかったと思っている。

 それまでの会社にいることでの悩みや苦しみは、今の生活ではすでに過去のものであり、今では自分が悩みながらも乗り越えたことで、一歩先に進んだかのように感じていたのだ。

 だが、専業主婦になればなったで。結構大変なこともある、近所からは、

「あの奥さん、パートにも出てないのに、私たちと同じようにしか、区の仕事をしないというのは不公平よね。しかも子供もいないというのにね」

 と陰口を叩かれているのを、風のウワサに聞こえてくるのだった。

 いちかは、それくらいの皮肉は別に構わないと思っていたが、時間が経ってくるうちに、何か体調がおかしくなってくるのを感じた。よく頭痛に襲われることもあるし、夜も寝つかれない。

 眠ろうとしても眠れないのは実に辛いことだ。頭痛であれば、、頭痛鎮痛薬を飲めば、ある程度は落ち着いてくるのだが、ただ眠れないだけというのは、精神的に追い詰めるおとになって、どうしようもなかった。

 しょうがないので、眠りもせずに、リビングで音を最低限にしてテレビを見ていたりするしかないのだが、そのうちに身体が夜行性になってしまった。そのうちに、

「眠れない時は、本を読めば眠たくなる」

 というのを思い出して、本を買いに行って、眠れない時に読むようにしていた。

 昼間に読むと、昼寝をしてしまって、またしても眠れなくなってしまうから、夜眠れない時の睡眠薬代わりに本を読んでいた。そのおかげでやっと眠れるようになったのだが、もし、本を読んでも効果がなければ、心療内科にでも行ってみるつもりだった。

 こういう不眠症は、ほとんどの場合が、ストレスからくるものなのだろう。

 いちかは今までにここまでの不眠症になったことはなかった。受験勉強をしている時は昼と夜が逆転してしまったり、

「眠れる時に眠っておく」

 という、時間の有意義な使い方を最優先することで、体調を崩すかも知れないということに目を瞑ってしまったということもあった。

 いちかが、その時に読んだ本がミステリーであった。

 本格ミステリーではあるが、トリックというよりも、トリックに対して物語が構成されていくという感じのものが多く、

「しょせん、トリックというものは、ほとんど出尽くしていて、問題はそのバリエーションにあるんだわ」

 と感じたことだった。

 この感覚があるので、小説のストーリーから、そんなトリックなのだろうか? と最初に読む時は考えていた。

 ただ、そうやって考えると、まずトリックが分かるということはなかった。何しろ、それまで本などあまり読んだことのないずぶの素人が、プロのミステリー作家が考えたトリックを解明するのはそう簡単なことではない。

 いや、トリックはほぼ出尽くしているので、そのバリエーションなのだろうが、その作家もプロになる前には、他の作家の作品を、今昔で読んでいることであろう。盗作になりかねない場合があるからだ。

 すべてを網羅することはできないまでも、まったく同じものなどはありえないだろうが、それでも、著作権の問題が大きくなれば、作家人生を脅かすことにもなるということなどで、なるべく他の作品にも目を通す必要があるだろう。

 トリックのパターンはいくつかしかなく、細かいトリックをいくつか組み合わせる方が盗作まがい那ことも防げるであろうし、ラストでの意外性を持たせるという意味でも、類似のストーリーがないことを気にしなければいけないだろう。

 そういう意味で、いちかは、ミステリー小説のトリックには、結構明るいところがあるのだ。

 ゆいは、いちかに自分の家にストーカーからの贈り物としての、バラやスズランが意味するものが何なのか、訊いてみることにした。いちかには、最近ストーカーまがいの人がいて悩んでいるということや、今日、警察の生活安全課に顔を出して相談してきたということだけは話した。

 内容がどういうことだったのかまでは分からなかったが、生活安全課がどこまでしてくれるのかということは知っているようだった。

「とにかく、警察というところは、絶対に何かが起こってからでなければ行動してくれないからね。それこそ、誰かが死なないと動いてくれないと言ってもいいくらいで、事件を未然に防ぐなんて考え、ハナッから「ないんじゃないかしら?」

 という。

「でも、防犯関係の課もあるみたいよ。生活安全課というのは、防犯も基準にした考えのところのようだからね」

 とゆいは言った。

「それはあくまでも建前ですよ。警察が、令状や証拠がなければ、いくら自分に確証があっても。踏み込むことはできないですからね」

 もっと言えば警察は、どこかのバーのようなところで網を張っていて、その中で現行犯の暴行事件が起こったとしても、大きなヤマの犯人を検挙するためには、暴力事件を見て見ぬふりをするくらいである。

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