第五十六話「加藤誠三佐」
東京上空。オスプレイ一機とAH-1Z ヴァイパー二機が編隊を組んで研究所に向かっている。オスプレイには特殊作戦群の隊員十七名そして朱音、護衛対象、藤宮の三名が搭乗している。特殊作戦群は世間が認知している陸自の特殊部隊だ。モンスターの集団を相手に戦った実践というかけがえのない経験を身に着けた俺たちはモンスターとの戦いにおいては世界でもっとも優れている。そんな特殊部隊をもってしても辿り着けないのであれば総理も日本を諦めて次のステップに進むことができる。
国がなくとも日本人が消えるわけではない。日本人と呼ばれなくなったとしても人さえ生きながらえれば歴史は紡げる。たぬきじじいさすがに失礼だな。総理のささやかな願いはそのなかの一人になることだ。そんな総理は護衛対象の存在をアメリカに知らせて自分の身の安全(人権)と生活を保証してもらおうと考えたが、俺に殺される脅威に気がついたのかそれとも日本人としての誇りを捨て去ることができなかったのかは分からないがやらなかった。
「五分後に到着する」
オスプレイのパイロットの冷淡な声がヘッドセットから流れる。
「了解。ヴァイパー(攻撃ヘリコプター)が入り口付近の敵勢力を牽制する。俺たちはモンスターの波をかき分け六号棟に侵入。地下一階にある電気室に入り、エレベーターから地下十階に移動する。エレベーターは秘匿されているが、内部の協力者の指示に従えば大丈夫だ」
五分。短いようで長い安息できる時間を満喫した隊員たちがファストロープ降下、太いロープを伝って敷地内に降り立つ。爆風が吹き上がっている。
「走れ! 走り続けろ!」
ヴァイパーの対戦車ミサイルが黒い集団に降り注ぎ、弾き飛ばす。ヴァイパーが作った波の穴を縫って俺たちは六号棟の正面玄関に移動する。護送部隊の隊長を務めることになった俺は正面玄関のガラスを銃撃して内部に足を踏み入れる。後に続く隊員も忌々しい洗礼を受けた。
「鬼に金棒じゃねぇか!」
ベレー帽に軍服姿のボスが20mmガトリング砲を個人携帯用に魔改造した武器を持って、物陰からぬぅと現れる。やぁと手を少し上げたボスが榴弾をばら撒いた。腐乱死体が膨張して爆発するように被弾した隊員の体が吹き飛び、痛みを感じる暇もなく絶命する。俺の部下が風船みたいに破裂していく。
壁がガラスが机が、様々な物が砕け破壊されていく。俺は駆け抜け、そして回転を続ける砲身を掴んだ。巻き込まれた腕が回転を強制的に止める。
腕を引きちぎった20mmガトリング砲をボスが投げ捨てた。尻もちをついてにやりと笑う俺の顎をボスが蹴り上げる。宙を舞う頭が壁にぶつかりころころと朱音の足元に転がった。首がもげてもしばらく意識があるって昔見た番組で言っていたが、ほんとうなんだな。
ボスが大型のサバイバルナイフを鞘から抜いて構える。
弾雨を乗り切った四名の特戦群の隊員のうち二名が、地面に伏せている護衛対象が背負う、リュックサックからピンを抜くと起爆するように改造した対戦車地雷を取り出す。自分の防弾チョッキの裏側に縫い付けたポケットに挿入する。護衛対象に運ばせたのはモンスターに攻撃されないという情報を考慮した結果、もっとも誤爆の危険性が低いと判断したためだ。
「ふー」
朱音に興味を持ったボスが俺の部下を無視して朱音に喧嘩を売る。朱音が息を吐いて銃を構えた。部下が朱音に逃げろと伝える。
朱音の使命は護衛対象が友達と再び合うそのときまで連れ添うことだ。死なせるわけにはいかない。朱音とボスの間に立った四名の俺の部下がボスの邪魔をする。右手にナイフ、左手に首輪を持って格闘戦に励む四名がうざったくて仕方がないボスの顔が曇った。四名の左手にある首輪には爆薬が仕込んである。
敵の首に叩きつければ自動的にロックされ、即爆発する。首輪はボスの首を切断する。ボス(頑丈なやつ)は頭だけの状態になると黒い卵のようなもので覆い隠し再生を始める。完全に覆い隠せるまでおよそ三秒ほど必要だ。その間に覆い隠せていない無防備な箇所を狙って弾を撃ち込めば寄生体に直撃させることができる。
「くたばれ!」
ボスを壁際まで追い詰めた四名が僅かな時間差を作り、一斉に突撃する。一、二名は死ぬが、ボスに首輪をつけることは可能だ。相手の武装がサバイバルナイフならばの話だが。
「やられた……」
ボスの真横にある傘立てにソードオフショットガンが置かれていた。ソードオフショットガンは銃身を短く加工、銃床も短くするか除去するかしてショットガンをコンパクトにした、銃器のことだ。それを手に取ったボスが構えた。
先陣を切った部下の右足が吹き飛ぶ。二陣の額に銃口が押し当てられる。散弾が無数の風穴を開けた。蜂の巣のような顔になった二陣の頭が千切れ落下する。
三陣の腹部に銃口をぐいっと押し込み上へ持ち上げたボスが走った。0距離から放たれた散弾がセラミックプレートをぶち抜いて臓器をかき乱した。セラミックプレートは五メートルほどの近距離から放たれるハチキュウの弾を止めることが期待できる性能を持っている。防弾仕様の車のボディを身に着けているようなものだが、0距離からの攻撃に対しては無力だった。
「くっ」
仲間の背中が迫ってきた四陣が身構える。対戦車地雷のピンに手を伸ばすが、掴むよりもはやく背中が到着する。腕を固定され、動けなくなってしまう。四陣の膝裏がソファーの肘掛けに衝突。倒れこみ、寝そべる体勢になった。
散弾が四陣の頭を破壊する。
地面を這う先陣がボスの足を掴んだ。ボスが先陣の首に首輪をつけたと同時に対戦車地雷のピンが抜かれた。先陣の首が飛びそして対戦車地雷が爆発する。
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