第五十四話「研究所所長の娘」

 哨戒ヘリコプターの乗務員が、機関銃の代わりに設置されている指向指示灯を使ってモールス信号を送った。監視カメラから見ていた私が符号を日本語に変換する。


「七瀬さん。ワクチンの糸口が見つかりました」

 その一言で、知恵を絞ってうぅーんとアイデアをにじりだそうと躍起になっていた研究員の顔が輝いた。これほど嬉しい報告もないだろう。

「まじ?」

「まじ、です」

「やったー」

 人懐っこい顔をしている黒髪ロングの研究員、七瀬雪乃が椅子に座る私を抱き締めた。喜びに打ち震える手に力が入っているのか、若干苦しい。


 私は背後から自分の腹部に回ってきている七瀬さんの袖を掴んだ。そしてはにかみ、こくりと頷いた。私の髪型は手入れが面倒という理由でショートヘア、服装はこれまた選ぶのがめんどくさいから日頃から学校指定の制服にパーカーを着込むお手軽ファッションだ。


「なんて返信しますか?」

「んー血液と唾液のサンプルが必要。可能ならば本人の護送が望ましい。サンプルだけでは原因究明に確実性が生まれない。これでお願い」

「分かりました」


 哨戒ヘリコプターの乗務員とやり取りをする。十五分ほど続いたモールス符号の会話で、特殊作戦群を中核とする護送部隊を編成して、対象を送り届けることが決まった。無事に日米共同施設に辿り着いたとしても帰れる保証はない。そのような決定を対象抜きで総理と群司令は確定させてしまった。

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