第四十八話「群司令2」

 ブラックホークがいずもに着艦する。飛行甲板に降り立った彼女たちを待っていたのは特戦群による手厚い歓迎だった。20式小銃とHK416の銃口が彼女たちを睨んでいる。

「ゆっくり両手を上げろ。手を組んで、正座するんだ」

「朱音……」

「素直に従ったほうがいい。言われたとおりに」

 朱音と呼ばれた自衛官とその相方は陰に潜む殺意を感じ取っていた。姿は分からないが、見られている? 二人の直感が警告を発していた。M24。狙撃銃のスコープが二人と武装している男の額に狙いを定めている。狙撃手と観測手のペアが艦橋に二、マストに一隠れて射撃姿勢を取っている。

「分かった」

 相方が素直に従う。銃社会アメリカ出身とおぼしき夫婦はもちろん、その他の面々も両手を上げて、手を組んで、正座をする。素早く接近した特戦群隊員が背後に回り、簡易手錠で拘束する。五メートルほど離れて小銃から第1護衛艦隊群の第1護衛隊が横須賀基地に停泊していた米海軍から借用した軍用テーザー銃に持ち替えた。


 隠れ寄生された人間。見た目も意思も人間そのものだが寄生体の支配下にある隠れた脅威との戦いで米軍は一つの知見を得ることに成功する。隠れ寄生された人間はかなりの痛みを伴う攻撃を受けた場合、半自動的にモンスターに変貌を始める傾向にある。つまりナイフで刺してみる、撃ってみるこれが唯一人間なのかそうではないのかを見分ける方法だ。だが人間かもしれない相手にそんな非人道的な行為行えるわけがない。よって考案されたのが電気ショックだ。


 テーザー銃は二つの蜂の針のような人体に刺さる電極を射出する。電極には電線が繋がっていて本体から流れる電気を伝える。スタンガンは肌と肌が触れ合う距離まで接近して押し付けなければ意味をなさないが、テーザー銃は電気がバチバチと流れる部位を遠くにロケットパンチの要領で飛ばすことができる代物だ。比較的安全に確認ができると米軍は考えた。

 自衛隊も同意し、米軍のお偉いさんと親しくしていた自衛艦隊司令や師団長は好意をうまく活用して小隊規模の数ではあるが、確保できた。


「これより確認作業を行う。五秒だ」

 飛行甲板に立っている加藤三佐が部下に指示する。

「了解」

 イヤホンから流れる加藤三佐の声に相槌をした特戦群隊員がテーザー銃を撃った。ピカ〇ュウの十万ボルトなんて比にならないほど強力な電流が面々を襲った。特に子供が痛みに悶絶する姿は見るに堪えない。加藤三佐の隣にいるわたしは制帽を深く被り視線を遮った。

 まともな神経をしている人ならば直視はかなわない光景を目を背けずに見ていた人は特戦群の隊員だけだった。覚悟を持った瞳をして、いつか罰せられる時がやってきたらその時は償うそんな雰囲気をまとっていた。

「医療班!」

 見守っていた加藤三佐が静寂を破った。第一線救護衛生員を中核とする自衛隊と民間(消防、宮内庁病院)の医療行為に従事していた人々を集め組織した臨時の班が医療班だ。

 わたしはハリス海軍中将と個人的に親しい間柄だった。家族ぐるみの付き合いまではないまでも良い仕事仲間でもあり飲み仲間でもあった。孫娘の話をよく聞かされていた、写真だって自慢げに見せられていたわたしは気が付いた。第一線救護衛生員に介抱されている少女。この子ハリス海軍中将の孫娘だ。どうして? なぜ? わたしは混乱する。

 彼女たちを介抱している医療班の仲間と目配せをした第一線救護衛生員、米軍で言うところの特殊部隊に在籍している衛生兵と同等の存在だ。砲火や銃火ひしめく戦闘地帯もしくは重大テロ事件で負傷した自衛隊員友軍兵士を処置する文字通り第一線で救護する衛生員だ。がわたしに身体に異常が見られない。全員無事と伝える。


「あ、ああ。了解した。筋肉の麻痺の影響でしばらくは動けないはずだ。医務室で休ませ、回復次第話を聞こう」

「了解しました」

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