第四十七話「群司令1」

『照射やめ。群司令に指示を仰ぐ』

 あきづきの艦長から連絡が入った。敵機になにかしらの問題が生じたらしい。

「どうした? 二佐」

『識別不明機に陸自の隊員と民間人複数が搭乗しています。敵、工作員の可能性はありますが、保護すべきだと考えます』

「自爆の危険はあるか?」

 ヘリの離着陸ができる環境が整っているのは旗艦のいずもだけだ。ヘリから降りた瞬間、陸自の隊員や民間人に偽装していた工作員がダッシュ、格納庫から飛行甲板にヘリや戦闘機を持っていくエレベーターの真上で自爆。航空戦力を無効化する作戦を敢行するつもりではないのか? とわたしは考える。


『部下の言葉を信ずるのならばありません』

「分かった。君の部下がそう断言するということは工作員ではない。仲間だ。本艦への着艦を許可しよう。だが、寄生爆発の危険性は残る。最悪の事態に発展した場合は本艦を攻撃するんだ。モンスターともども海の藻屑に変えろ。分かっているとは思うが、救助するなよ」

『了解』

 第2と第4護衛艦隊群はモンスターから逃れるために艦から海へ飛び込んだ隊員や民間人を救助。そして寄生されていた人間が紛れ込んでいなかった艦に収容。安全だった艦に寄生された人間が入ってきて、寄生の連鎖に巻き込まれる。最悪のサイクルを繰り返して全滅した。

 安全を保つために危険性を排除。すなわち識別不明機への攻撃が本来選択されるべき答えだ。艦それも旗艦に収容するというのはクレイジーだ。それでもわたしは彼女たちを見捨てなかった。自衛隊の誇るべきことでもあり弱点でもある。戦場という常識が通用しない環境ではもっとも残忍、もっとも残酷になった者だけが生きる権利を得る。常識人に与えられるのは死ぬ権利だ。当然、わたしも重々承知している。

 旗艦。いずもの戦闘指揮所で艦長とわたしが意見をぶつけている。


「空戦能力の喪失を招く恐れのあるリスクは回避すべきです! 我々は五百二十名の命を背負って指揮を執っています。彼らを巻き込むべきではありません」

「その通りだ。だが、見捨てたくはない。わがままに部下と救助者を付き合わせるのは心苦しいが、考えを変えるつもりはない。最大限の対策はする。甲板を隔離。寄生の有無を調べる最中にモンスターに変貌した場合は特戦群に始末を任せる。彼らはプロだ。地獄の防衛戦を耐え抜き卑弥呼さまを無事本艦までお連れする偉業を成し遂げた技術を信じようではないか」


 わたしは必死に訴えかけた。理性は殺せ、脅威を排除しろと囁いている。噂を耳にしていなければ艦隊の長としてリスクの排除をわたしとて選択していた。寄生されてもモンスターにならなかった少女がいるらしいという噂が、プライドのために理性をねじ曲げる理由を探していたわたしを手助けする。


 ほんとうにいるのかどうか分からない。だが、陸自の部隊から連絡があった。追い詰められた末の妄想かはたまた事実か。蓋を開けなければ分からない。

 

 ブラックホークから手を振る少女のどちらかは噂の主だと思うことにした。

「……わたしも特戦群に同行します。危険を押し付け、はいさよならというわけにはいきません。命を懸けさせるのならわたしも懸けねば失礼に値します」

「ダメだ。貴官は艦長だ。代わりはいない」

「お言葉ですが!」

「わたしが同行する。わたしが殉職した場合は貴官が群司令だ。貴官ほどいずもに精通している人間はいずも広しといえどもいない。我々をよく思わない敵勢力に攻撃されればいずもが防衛戦の中核になる。そのとき(わたしが死んだ)は任せた」

「了解」

「少し席を外してもいい?」

「えぇーっ!?」

「ダメ?」

 わたしは子供みたいにしょぼんとする。ちょっと愛くるしいと思ったらしい艦長は思わず笑いそうになるが、堪える。

「冗談です。準備が出来次第連絡します」

 自室にてしばし休息することにした、わたしは秘蔵のワインボトルのコルクを抜いた。若干矛盾していることやってるなぁと思いながらもわたしは自室のソファに腰を下ろし、ワイン飲み、舌鼓を打つ。十五分後、艦長が扉をノックする。返答したわたしが自室の扉を開けた。艦長の後ろにいた特戦群統合チームの指揮官、加藤誠かとうまこと三佐がわたしに敬礼をする。

「部隊配置が完了しました」

「ご苦労。ではよろしく」

「任されました」

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