第三十一話「アメリカの大統領1」

 エアフォースワンの機内にアメリカ大統領そう俺の姿がある。中国で急遽開かれることになった会合に参加するために移動中だ。会合では中国、韓国、アメリカの三ヵ国が話し合う予定になっている。主に議論される話題は在日米軍の兵士と家族。アメリカ国籍の日本滞在者と旅行者を韓国に一時的に受け入れてほしいだ。アメリカ国内の一部の専門家が寄生体(バケモノ)が船舶や航空機の隙間などに潜伏して日本→アメリカに渡ってくる可能性があると発言したせいで、自国民だとしても入国を禁止するべきだ! と熱弁する集団が現れてしまった。なにバカなことを言ってるんだと反対する集団と小競り合いが発生するまでに問題が膨れ上がっている。その問題が落ち着くまで、米軍基地が国内にある韓国に自国民を収容したいと米政府は考えている。


 韓国のお隣さん中国はえ? もしも寄生体が潜んでいたら巻き込まれるんだけど。その辺どうなの? リスクを許容するにはそれなりの恩恵がないと頑張れないよねぇースタンスを取って傍観中だ。


 エアフォースワンの機内にある大統領執務室のソファーに腰を下ろしている俺は嘆息する。俺が持っているタブレットにはSNSや動画サイトに民間人がアップした埼玉防衛戦の映像、戦闘地帯に指定された区域に勝手に入ってきたマスコミが報道したニュース映像をまとめた動画が表示されている。


「あの日本がよくこんな作戦を許したな。英断だが、結果がこれでは意味がないだろ」

「大統領。日本政府は許可していません」

「そうなのか?」

「ええ。自衛隊上層部の独断専行です」

「ほう。気骨があるやつがいるみたいだな。是非とも頑張ってほしいものだ。自衛隊の日本防衛はどうなっている?」

「五個師団に相当する部隊アルファが宮崎および山形の境目に展開しています。この部隊は北海道に避難民が逃げる時間を稼ぐことを目的としていると考えられます。関西国際空港近辺にブラボー、中部方面隊と警察が展開しています。関西国際空港にはF-15が少なくとも八機、輸送ヘリコプターおよび輸送機として間借りしていると思われる旅客機が数十機あり、日本には海外もしくは北海道に自国民を空輸できる能力が残っています。アメリカに無断で来る可能性もあり、こちらへの対策も必要です」


「沖縄に日本人を空輸する危険性はないのか?」

「沖縄は在日米軍が封鎖しました。許可された機体以外は侵入できません」

「ふむ。特殊部隊の動向は?」

「動向?」

「日本にも特殊部隊くらいあるだろ。沖縄に自国民を空輸するために暗躍するかもしれない。対処できるのか」

「問題ありません。特殊作戦群、グリーンベレーに相当する部隊は皇居を封鎖して立てこもっています。別の作戦を行う余裕はありません。水陸機動団、海兵隊に相当する部隊はPMCその実態は中国軍なのですが。武装勢力に占拠された鳥島の奪還作戦に動いており、こちらも沖縄に目を向けることはありません」


「鳥島か。嫌な場所を取られた。奴ら基地でも建設するつもりなんだろ」

「はい。日本が地図から消えたときに広大な土地をどさくさに紛れて独占できるように西洋諸国を牽制しつつ軍配備をする足掛かりとするつもりだと軍は言っています」


「独占すれば企業が持っていた技術も国が守っていた文化財もなんでも奪い放題だからな。モンスターを駆逐して自国民を住めるようにすれば中国の影響力は我々でも抑えられない領域に入ってしまう。中国軍はあれに勝利できると思うか?」


「水陸機動団にですか?」

「違う。モンスターに、だ」

「専門家は無理だろうと言っています。わたしもその意見に同意です。核でも使わない限り、あの黒い大群は止まらない。日本に残り続けると思います」


「そう、か。だとしたら放置しておくのも手ではあるな」

「はい。共倒れにでもなってくれればありがたいです」

「おぬしもわるよのぉ」

「おだいかんこそ」

「「ははは」」

 俺と俺御抱えの工作員の男が笑っている。俺は工作員の男に直命を授けている。韓国の北朝鮮大使の仲介で、渡り、幹部を介して話をつけろ。これが男の今の仕事だ。米政府はあらゆる状況を想定して準備をしている。ぬかりはない。


 ははは。たった今、韓国。ピョンテク市にある米軍の拠点、ハンフリーズ基地に避難者を乗せた輸送機が到着したと報告を受けた。事後承認になってしまうが、すでに韓国の米軍基地に受け入れをやらせている。避難者は付き合いのあるVIPの集団だ。


 基地内の飛行場から移動してきた米軍バスの一団が住宅街に入ったらしい。よしよし。もう大丈夫だ。恩をなにに変換しようか。ああ楽しみだ。彼らが乗ってきた航空機は念入りにチェックしている。寄生体が潜んでいないことは確認済みだ。


「大統領! 緊急事態です!」


 え? こいつはなにを言っているんだ? 秘書官の報告の内容が意味不明だ。寄生体に寄生されていた避難者がいました。どうやらモンスターが避難者を気絶させ、寄生体が自らを液体化し、体内に侵入して沈黙。助かったと勘違いした避難者は当然米軍に助けを求める。まんまと騙された米軍は寄生体入りの人間を救助。そして韓国の米軍基地に連れてきてしまったらしいんだが、そんなことある? 


 そんな芸当ができるとかやばいじゃん。俺はエアフォースワンをアメリカに引き返すように指示する。話し合いは中止だ。寄生体はウイルスよりもたちが悪い。こいつを世界に普及させないようにするにはどうすればいいのか話し合うために国際連合緊急特別総会を開催する必要がある。受け入れは失策だったな。


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