第三十話「戦車長の独語」

 俺たち第三戦車小隊は平地の三県境、そこに展開していた第1、2射撃中隊(砲兵隊)の護衛を任された。射撃中隊はなぜか米軍の榴弾砲を使っていた。なんでも自前の装備品を米軍にぶんどられてなかったから、そのお詫びも兼ねて急遽きゅうきょ借りたと隊員が言っていた。夕暮れ時になったとき榴弾砲がM107を打ち上げて遠目でも分かるほどの黒い集団を攻撃。目標に着弾した榴弾が破片と衝撃波をぶつける。初めて見た爆発の連続に俺たちは歓喜した。勝ったと思った。でもそれは錯覚だとすぐに分かった。衝撃波はモンスターの中にある死体まで届いたと俺は思う。死体じゃなければ脳が破裂するか、精神性ショック死でおそらく活動を停止したはずだ。でも死体に効果はなかった。唯一破片だけはダメージを与えていた。頑丈なやつには無力だったがないよりはマシだ。モンスターは脳を破壊されない限り行動を止めなかった。腕が吹き飛ぼうが、足が千切れようがお構いなしに前進を続ける。M107は奴らにとってクラッカーボールと同じだった。少し痛いくらいで、別にって感じに平然としていた。フレシェット弾があればもしかしたら作戦は成功していたかもしれない。でも日本に大勢の人間を殺害することだけを追及して作られたフレシェット弾なんて危ないものはなかった。何千、何万の釘の雨を耐えられる生命体はいない。それを耐えられるのならそもそも勝てない。勝つ可能性があったとしたらそれだけだった。小さかった黒い集団がどんどん大きくなっていった。俺は徹甲弾を撃った。装甲に穴を空けるために作られたそれはモンスターには効果がほぼなかった。直撃すれば一体倒せる程度の徹甲弾は集団に対しては無力だ。銃を撃つ方がはるかに有効だ。俺は砲撃を諦めてひたすら重機関銃を撃ち続けた。射撃中隊は砲身を真っ直ぐにして打ち上げるんじゃなくて銃みたいに榴弾を撃って頑張ってくれた。それでも止めることができなかった。モンスターが目前まで来た。俺は生き残りを、逃げ遅れた民間人の避難場所として使っていた中の島まで下げた。


 道路を爆破してなんとか助かったが、同時に行き場を失った。


 しばらくして無線連絡が入った。第二防衛線を突破されたらしい。敵勢力は健在。勢いを止めることができない。第三防衛線を食い破られた。作戦失敗。撤退する。錯綜する情報が不安を掻き立てる。最後の無線連絡は東京に来た。


 日本の主権は大丈夫だろうか? 俺たちの人権はどうなる。今後が不安だ。


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