第二十八話「双葉琴里4」

 朱音さんに敬礼した砲手と操縦士が私とストレッチャーに横になって眠っているひなを空きテントまで案内する。ストレッチャーのひなを砲手がお姫様抱っこする。ジェラシー。私は砲手と協力してひなを寝袋に入れる。操縦士が水と段ボールを持ってきた。段ボールの中身は生理用品やマスクなどの生活用品だ。


「ありがとうございます」

「質問よろしいですか?」

「はい」

「二尉もしくは三尉のご子息ですか?」

「違います。どうしてそう思うんですか」

「特別視しているようでしたので、そうなのではないかと気になりまして」

「……」

 言葉に詰まった私は困った表情をする。もしもひなに免疫があること、バケモノに寄生? 合ってるか分からないけど、されたことがあることが知られたら暴動が起きるかもしれない。殺せ! と暴れる民間人に襲われる場面を想像する。私は熟考するが、言葉が思い浮かばなかった。


「トイレはここから二百メートルほど離れたところにある赤い屋根の建物です。食事の時間になりましたら呼びに来ますので、それまで休んでください」

 知られたくないことの一つや二つあるよな。悪いことをしたなとたぶん思ってる。操縦士が自分の髪の毛を触った。ばつが悪そうに二人が持ち場に戻った。


 私はほっとする。私は幼いながらもアニメや映画に慣れ親しんだことで、人間は未知に恐怖する。それが自分たちを救うかもしれない存在だとしても怖いから排除することを理解していた。


 ひなを守ってくれる人間は家族を救える希望に縋るか、誇りを捨てないもしくは捨てられない人間それしかないと考えている私は砲手と操縦士には言ってもいいかなと思いつつも噂というのは意図せずに流れてしまう。と迷い、言わないと決めた。


「色々あって疲れただろ? 少し眠った方がいい」

 テントに朱音さんと藤宮が入ってきた。朱音さんが汗を拭った。

「大丈夫」

「大丈夫じゃないでしょ。襲われる心配はないし、私たちが見張ってるから安心して横になってればいいの」

「分かった。ありがとう」

 藤宮の言葉に甘えることにした私は寝袋に入った。

「少し飲む?」

 屈み跳躍用意と言わない代わりに戦車長から分捕ったのかな? 缶ビールを藤宮が掲げた。酒盛りを邪魔しないように私は静かに目を閉じる。

「ああ」

 とくとくと注がれたビールの音がする。くいっと口に含んだ音がする。久しぶりのビール特有の苦味を堪能した朱音さんと藤宮が談笑する。


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