第十六話「月城朱音1」
新発田駐屯地に駐屯している、第30普通科連隊に災害派遣命令が言い渡された。89式小銃を携帯する自衛官たちが小銃に装填されているマガジンを抜いて、弾込めされていない、ことを確認する。確認が終わった印に青色のマスキングテープをマガジンの外周に巻く。その様子を見ていた私は疑問に思う。
「弾込めは連隊長の許可があり次第可能になる。青は未装填、赤は装填済みだ」
「中隊長」
私は疑問を払拭するために上官に質問する。
「……どうした。
「我々は災害派遣に赴くという認識で正しいのでしょうか」
みなかみ町で土砂崩れが発生。その救助活動に行くと私は説明を受けた。銃を携帯する意味が分からない。SNSで見たみなかみ町のモンスターってほんとなの?
「そうだ」
「銃の必要性を感じません」
「銃の必要性は関係ない。我々は訓練をしていた。その
「どういうことでしょうか」
「災害派遣は建前ということだ。ニュースにひっきりなしに映る黒い液体に覆われた人型のモンスターはデマではない。実際に国民を襲っている。我々の任務は住民の救助およびモンスターの拠点と思われる工場の調査だ」
警察官が職務上日常的に銃を携帯できるのと同じような権限を自衛隊も持っている。自衛隊も防衛出動や治安出動など特別な命令があるときに銃の携帯が許可されるわけではなく、黒よりのグレーではあるが今回のように正当性がないときでも使えないだけで銃の携帯はできる。特別な命令のときに許可されるのは正当性があるから規定に従って撃っていいよという許可だ。災害派遣では銃の使用を正当化できないため、あくまでも災害派遣とは別に銃を携帯していますよ。訓練中の部隊を必要に迫られて急遽送りました。ということにしたらしい。使うつもりはないけど携帯はしてるというスタンスだ。襲われたときは、使うつもりなかったんだけど、銃を奪われたら国民に危害が及ぶだから銃を保護するために攻撃します。もしくは避難所に輸送中の邦人を守るために攻撃します。この二つを黒よりのグレーではあるが行使できる。
「了解しました」
「殺意を持った存在に襲われたことがある者はいない、だろう。初めて我々は任務で、死の恐怖を感じる。その度に訓練を思い出せ。おまえたちは今日、この日のために辛い日々を乗り越えてきた。その自信が、共に手を取り合った仲間が、おまえたちを救ってくれると俺は信じている。いくぞ」
第一中隊の全員がびしっと敬礼をして自分たちも同意見ですと示した。隊員たちが「了解!」と叫んだ。私はマガジンポーチをぎゅっと握る。ここに入っているマガジンには赤色のマスキングテープが巻かれている。
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