第十四話「テレビカメラマン2」

 ニュース番組の司会者が視聴者の期待を上げてから現場の渡辺アナウンサーにカメラ映りの権利を渡す。受け取った渡辺は出世のために勇気を振り絞る。


「爆撃機の編隊はゆっくりと山に向かっています。よく観察して気が付いたのですが、護衛の戦闘機がいません。いないということは攻撃される恐れがないということになります。防空ミサイルの可能性はなくなりま、いえ! あります!! たった今、黒い豚のような形の物体が二つ地上から発射されました」


 俺と渡辺のイヤホンからスタジオの声が流れる。


『黒い豚のような物体、だ? 鉛筆のようなではなくて? 豚? 意味が分からない。なにこれ?』

「爆撃機が爆発しました! つ、墜落します!! ここは危険です、退避します。鈴木さん鈴木さん! 逃げましょう。鈴木さん!!」

 すげぇ。世紀の映像だ。これは伝説になる! 俺は歴史の目撃者だ!


 二千億円という巨額が投じられて作られるB‐2がすべて(三機)撃墜された。米空軍に投入されてから負け知らずだったB‐2がメラメラと燃え上がり、市街地に落下していく。半径三百六十五メートルこの圏内にいる生命体を一掃できる爆弾が十六発搭載されていると噂されている爆撃機が市街地で爆発すれば地上に展開する米軍を含め多くの犠牲者が出る。阻止しなければ、と考えたらしい無人機のパイロットが空対空ミサイルを発射。爆撃機が空中でバラバラになる。破片が落下する。すげぇ。


「撤退! ヘリに搭乗しろ!!」

 公園の米軍兵士たちが、最悪の事態を想定してすぐに退避できるように待機していた輸送ヘリコプターCH‐47Jの荷台に乗り込む。上昇する輸送ヘリコプターを撮影する俺の肩を必死に揺り動かす渡辺が言った。


「黒い、液体に覆われた人? 大勢の人? がこちらに来ます。手になにか、武器です! 武器を持っています!!」

 ばっとカメラをアナウンサーに向けた、俺は後悔する。石と木を使ってモンスターが作った手斧がくるくる回転しながら飛んできて、渡辺の腹部に突き刺さった。接近したモンスターが手斧の握り部分を掴んで、スライドしながら力強く抜き取った。血と臓器が空を舞う。中継画面がしばらくお待ちください。の画面に切り替わるまでに流れてしまった映像は視聴者をパニックに陥れるはずだ。俺は最低のクズだ。


 やべぇ。やべぇ。語尾力のない言葉を羅列して人が死んだっていうのに金のために話題をかっさらうために撮影に没頭するあいつらと俺は変わらない。


 俺はテレビカメラマン失格だ。手斧が俺の頭をかち割った。

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