第七話「F-35」

「地上に生存者はいない」

『了解。空爆を開始せよ』

 F‐16を撃墜しなければまだ、米中露の特殊部隊員は生きていたかもしれない。助かったとは思えないが、助かる可能性はあった。だが、上層部よりもさらに上に位置する連中は迅速な空爆を欲していた。そのためには後々の問題、米軍が不法作戦中とはいえ中露の人間を殺害その責任の追求をかわす必要があった。


 生存者がいなければ責任は生まれない。上は彼らをバケモノに捧げた。


 俺は精密誘導爆弾を投下する。目的の地点に正確に落下できるように自動的に軌道を調整する機能が搭載されている精密誘導爆弾が地表よりも少し高い位置に到着。最新の爆弾は昔と違って先端のスイッチのような部分が地面と衝突するなどして押されて爆発する方式ではなく設定された高度に到達したら爆発する方式を採用している。


 精密誘導爆弾がバケモノを高温の熱とプレス機の力を超える圧力で、包み込んだ。焼かれ、破片に切り裂かれたバケモノは運がよかったのかもしれない。爆圧に押しつぶされる、気化した体内の水分が外へ出たい出たいと暴れて風船が破裂するみたいにバラバラになったバケモノは最悪の爆死を迎えた。


 上は最初から助けない前提で話を進めていた。映画みたいに体内にバケモノの卵かなにかを産み落とされているかもしれない。もしくはバケモノが脳に癒着して操っているかもしれない人間を救うリスクは許容できない。だから全滅するまで待つと上は決定を下した。早期に周辺の人間ともども空爆しなかった、だけ良心的と言える決定はバケモノにとって助け舟になった。


「黒い。卵のような物体の破壊を確認できない。健在だ」

 バケモノが体内に入った人間は黒い卵のような物体に覆われている。嫌な予感がする。人間を使って、なにか得体の知れないモンスターでも作っているのだろうか。


『そうか……卵のような物体の破壊はシールズに任せる。パッケージは無事か?』

 パッケージはパンドラを意味している。

「無事だ。傷一つ、ついていない」

『研究者の見立て通り核爆発にも耐えられる装甲なのかもしれないな。中国が再度攻撃してくる可能性がある。領空権の維持に努めろ』

「……」

『どうした?』

「今、悪魔の誕生を目撃している」

 黒い卵のような物体を破って人形のモンスターが出現する。

『卵のような物体から敵が出現したってことか? まずい。今すぐ排除だ!』

「了解。攻撃を開始する」

 F‐35、歴代の戦闘機の中で一番若い。新参者だ。最新の技術力を結集して製造された世界最高峰のステルス多用途戦闘機。対地、対空ともに他の戦闘機を凌駕する実力がある。数十年はF‐35を超える対地対空両方最強の戦闘機が生まれないだろうと言われているため航空自衛隊も採用している。それ以外の理由もあるがここでは割愛する。F‐35がある国とない国では航空戦力にかなりの差が生まれるからだ。購入できる期間に買っておかなければ最低でも十年間は空が無防備になる。


 俺はそんな最新鋭の機体を任されたエリートだ。敵を絶対に葬れる自信がある。だが、ミサイルをものともしない相手はお帰りください。


 ミサイルが人型のモンスターたちに向かって飛翔していく。モンスターの一体が太い腕を盾のように構える、その背中を支えるように二体が背後に立った。ミサイルがモンスターの腕に命中する。腕が空高く舞い上がった。F‐35の攻撃を防いだモンスターの腕が生え変わった。何事もなく森林に走り去っていったモンスターたち(およそ二十体)を見た俺は不死身なのか? と恐ろしくなった。


『追撃できるか?』

「不可能だ。森林に隠れたあれを視認できない」

『分かった。あれの排除は海兵隊にやってもらおう。自分を責めるな。警戒任務に集中しろ』

「了解」


 俺はモンスターの処分を諦めて、領空権を維持するために空の警戒に戻った。

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