第一話「ハロルド」
地上から四百キロメートル上空に浮かぶ実験施設【国際宇宙ステーション】宇宙に漂う謎の究明、経済的利益につながる実験等々日々人類の知的好奇心と出資者の欲望を満たすために宇宙飛行士に生活環境を提供している。国際宇宙ステーションの動力源は太陽電池、太陽の光を電気に変換する優れものだ。電池と名がついているが、太陽電池は電気を蓄えることができない。変換した電気は旧型の蓄電池に蓄えられるのだが、最近こいつの調子が悪い。太陽電池がせっせと送った電気を無駄に垂れ流してすぐに枯渇させてしまう。老朽化が目立ってきたから調子が悪くて当たり前なんだけどな。蓄電池も年には勝てないらしい。新型つまり若者の蓄電池に交換しろって上からのお達しが来た。船外活動は危なっかしくてやりたくないけど、交換する必要があるってんならやるしかない。俺は右側、ポーラは左側の取っ手をつかみ新型の蓄電池を持ち上げる。無重力だから軽い。ハッチから船外に出て、宇宙を泳ぐ。トラス、蓄電池が収まっている場所に到着した俺は相棒のポーラと旧型の蓄電池を交換するべく、ドラム缶並みにデカい旧型の蓄電池を取り外して、新型の蓄電池を差し込む。ノルマは三本だからこれをあと二回繰り返すのか面倒だな。
「ポーラはいいよな。地球を眺めながら作業ができるんだから」
ポーラの眼前には地球が広がっている。対して俺の眼前に広がっている景色は闇だ。背中に目があれば地球を見れたんだが、人間には前にしか目がないから仕方ない。無限に広がる闇、宇宙で我慢するか。
「ふふふ」
ポーラが自慢げにニマニマする。文句の一つでも言ってやると思い至った俺は口を開くが、言葉が浮かばない。鯉みたいにぱくぱく口を動かすことしかできない。
呼吸が乱れる。恐怖が混じる俺の呼吸音がマイクを通じて、ポーラのヘルメット内にこだまする。ひっと小さい悲鳴を漏らしたポーラが無線機をOFFに切り替えた。我に返ったらしいポーラがONに切り替える。通信の遮断は重大な規則違反だ。
「ハロルド……? ハロルド……?」
鳥肌が立つ聞きたくもない俺の呼吸音をぐっと我慢して、ポーラが呼びかける。頭では呼びかけに応じなければいけないと分かっているが、死が間近に迫る状況では分かっていても応じられない。そんな余裕はない。
沈黙に耐えられなくなったポーラが視線を移す。地球から闇が広がっていた後方に移った景色が危険信号を脳に送信する。瞳の先には戦艦を連想させる宇宙船らしき物体がある。ほんの数秒前までそこには闇しかなかったのに、いきなり現れやがった。
操縦士はあほなのか? どうして止まらない? どうして回避しない? やめろ! 宇宙船らしき物体が国際宇宙ステーションに突っ込む。宇宙船らしき物体が国際宇宙ステーションがバラバラに砕ける。そして大爆発だ。爆風にどんと俺とポーラは突き飛ばされる。クルクル回転して宇宙を彷徨う。ポーラは運よく破片に激突して即死するが、俺は運命に嫌われているのか、破片を避け続ける。宇宙にばらまかれたゴミが人工衛星を破壊している。大量のゴミが弾丸のように縦横無尽に飛び回り、破片同士衝突したり破壊活動に従事したりめちゃくちゃだ。一部のゴミ、それも十メートル場合によっては三十メートルもあるゴミが地球に興味を持ちやがった。燃え尽きればいいんだが、おそらく無理だ。次々に大気圏に突入するゴミを俺は黙って見つめた。
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