わすれさられてゆくものへ

ありがとう。

小さな靴


大きなぬいぐるみ


飴の指輪


3年間伸ばし続けた髪の毛の3日後


5歳の記憶


泣いた数


笑いあったはずの時間


クラスメイトの名前と顔


初恋の胸騒ぎ


幾度も繰り返した擦り傷


飼っていた猫のぬくもり


あなたとの約束


鼻を抜けるジャスミンティーの香り


片耳を失くしたピアスの行方


途中で書くのを辞めた日記


100円の重さ


明日への期待


さび抜きの寿司の味


閉店した駄菓子屋さん


ひたすらに感動した夕焼け


走って追いかけた雲


人を傷つけたこと


晒した恥


楽しい想い出





私たちは、生きている。


私たちは、生きて行かなきゃならない。


だから、覚える。


だから、忘れる。


わすれさられてゆくものへ――――……、


あなたたちを、大切に、するから、頭じゃなく、心に残っていて。


時々で良い。


顔を出して。


はっきりとじゃなくていい。


朧気おぼろげでも良い。


『私たちが、今のあなたをつくったのよ』


って、囁いてください。


わすれさられてゆくものへ――――……


ありがとう。


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