第18話 もうひとつの力

エデルはジャイルと対峙する覚悟を決めた。その意志が伝わったかのようにジュア達三人がジャイルに向かっていった。ジュア達が目の前に迫っていてもジャイルは武器を構える事はしなかった。その真意が分からず、エデルも混乱していた。その時、近くに倒れていた死者が次々と起き上がり、それらは一斉にジュア達に向かっていった。その行動はまるでジャイルを守っているかのようだった。

「何をした!」

そう叫ぶエデルにも死者が近づいていた。ジュアはマールスとルナにその場を任せ、主であるエデルを守る為動き出していた。ジュアがエデルのもとに戻る前にマールスの声が辺りに響いた。突然の動く死体に対応しきれず、群がる死者に囲まれていた。

「ジュア!俺は大丈夫だ!ルナの援護を」

この時、ルナだけがジャイルの目の前に残されていた。しかし、エデル達の言動は後手に回りルナはあっという間に死者に囲まれてしまった。

「エデルさん、どうです?私の力は」

ここでようやくジャイルが口を開いた。ゆっくりと死者に囲まれたルナに近づきながら話し始めた。

「私はもう1つの力を手に入れた。これは傀儡使いとしての進化と言ってもいい」

エデルは群がる死者を払いながらジャイルを鋭く睨みつけていた。

「私は死者をも操る事が可能になった。しかしそれだけでは無い」

そう言うと死者に囲まれ身動きのとれないルナに顔を近づけた。ルナは何か引き込まれるかのように、無気力になり始め抵抗することも止めた。


ようやく動き出したルナが再び武器を手にした。しかし、目の前にいるジャイルではなく、向かったはエデルの方だった。ジュアが必死に止めるも、普段以上の力で押し返された。

「ルナ、辞めろ!」

少し離れた所にいたマールスが叫ぶ。しかし、ルナは動きを止める事はなかった。

「ルナ!」

エデルがその名を叫んだ時、ルナの歩みが少しだけ止まった。それを見ていたジャイルは感心していた。

「なるほど。傀儡と化しても意識が戻る事がある。だからですかね」

ジャイルの言葉をエデルは聞き逃さなかった。

「だから何だ、知っている事があるのか」

「ええ。彼らもまた意識を取り戻した可能性が出てきたという事です」

「彼ら?」

「エデルさんの消えた精霊の事です」

ジャイルはそう言うと、エデルの消えた精霊達について話し始めた。ジャイルの監視をしていた精霊もジャイルの力により傀儡と化してしまった。しかし、ジャイルの思いもよらぬ形で突然と消えてしまった。ジャイルはルナの意識が戻った事によりある仮説を立てた。

「意識が戻った時、自ら命を絶った可能性がありますね」

その言葉にエデルは驚きを隠せないでいた。

「そんな事が可能なのか」

精霊が自ら命を絶つ事など不可能だと思っていたからだった。


意識を取り戻していたルナだったが、身体は自由に動かせずにいた。しかし、エデルの気づかない所でルナはジュアやマールスと通信を行っていた。

「やるなら今しかない」

ルナがそう言った。

「しかし、彼らを何とかしなければ」

マールスはジャイルによって操られている死者の大群を何とかしなければ、と考えていた。

「そうだな、このままでは残された主により危険になる」

ジュアが続ける。しかし、三人は死者の大群に対する解決策を見出せずにいた。まして、その中には白狼や黒狼の姿もあった。下手に手を出し、余計に傷つける事はどうしても避けたかったのだろう。

「もう、無理かも」

ルナは再び、意識が遠のきそうになっていた。

「主を傷つけたくないのに」

ルナの目には涙が浮かんでいた。


その時、一筋の光がジュア達に味方したのだった。

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