第14話 動き始める未来(前編)

数日が経ったある日の早朝、エデルからの通信で目を覚ましたリント。

「何かあったんですか?」

リントはぼやけた口調でエデルに聞いた。

「今すぐ、ファーマの屋敷に来て欲しい」

エデルの慌てたような、危機感に満ちたその声にリントの頭は目は一気に冴え、すぐさま支度へと取り掛かった。


屋敷に着くとエデルはリントをファーマの所に連れて行った。その部屋のベッドの上では静かに眠るファーマの姿があった。しかし、リントは最初その人物がファーマだとは気づかなかった。リントが知る彼女よりもかなり年老いた姿だったからだ。

「もしかして…」

リントはそう呟いた。

「ああ。あと数日ってところだな」

エデルが静かに答える。

「以前から相談されててな、最近はよく様子を見に行っていたんだが、昨日から寝たきりだったんだ」

ファーマの守り人としての生は終わりを迎え始めていた。最近、エデルがジュア達に何も言わず出掛ける事が多かったのはこの為だった。


「あの、この事ジャイルは知っているの?」

リントはエデルにそう聞いた。

「連絡はしたが返事はなかった。まあ、皆に監視させているから大丈夫だと思うが」

エデルは精霊達の変化にまだ気づいていなかった。しかし、リントの胸騒ぎは止まることはなかった。

「あの、話しておきたい事があるんです」

リントはあの未来をエデルに伝えようとした。その時、エデルが何かに反応した。それはジュア達からの通信だった。通信を終えたエデルの顔色はかなり悪かった。

「何かあったんですか」

リントが聞くと、エデルは

「ジャイルの監視をしていた精霊達が消えたらしい」

エデルはそう言っていたが、精霊達が消えたのはもっと前の出来事である。精霊達の身に何が起きたのか誰も知らない。同じ存在であるジュアやマールスさえ気づくことができなかったのだ。

「もしかしたら…」

リントはあの未来をエデルに伝え、すぐに動くべきだと言った。しかし、エデルは頭の中を整理したいと、どこかへ行ってしまった。一人部屋に残されたリント。その心は後悔に満ちていた。何故、もう少し早くあの未来を皆に伝えなかったのか。何故、もっとジャイルの動きに目を光らせなかったのか。

「僕はどうしたらいいんでしょうか」

その言葉に答えるかのように現れたのはジュアだった。

「大丈夫か?」

リントは頷くが、潤んだ目からはとてもそう思えなかった。

「心配しなくても大丈夫だ。エデルの傍にはマールスがいるし、ジャイルの行方はルナが追っているから」

ジュアがいくら声をかけてもリントは答える事はなかった。

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