第9話 消された記憶
彼が消息を絶つ少し前、当時の時使いゲイルはまだ、普通の存在であるエデルのもとを訪ねた。力が発揮され見た未来に、精霊使いとして奮闘するエデルの姿があったのがきっかけだった。もともと孤児だったエデルは何の躊躇いもなくその役目を背負った。ゲイルに連れてこられたのはパランディエス、守り人が最初に訪れる鍛錬の星だった。しかし、そこには既に二人の人物がいた。一人はジャイル、そしてもう一人は美しい白髪をもつ青年だった。エデルよりも少し年上の青年はグリスルプスから姿を消した白狼だった。
経緯は不明だが、ジャイルは彼が次の精霊使いだと言った。勿論、それを他の守り人は信じなかった。ゲイルは特に、自身が見た未来に間違いはないと断言した。両者一歩も引かなかったが、鍛錬を重ねた先に答えがはっきりする事は周知の事実だった為、エデルと彼はそれぞれ鍛錬を行うことになった。
一方、彼の故郷であるグリスルプスでは、既に一触即発の状態だった。勿論、彼はそんな事になっているとは全く気づいていない。全てを知っているであろうジャイルは、不安がる彼に笑いかけ、問題は無い事を訴えた。グリスルプスで争いが起き始めても、対処に動こうとはせず、また、この情報を他の守り人にも話す事は無かった。
月日が流れるうちにエデルと彼の間には、兄弟のような、友人のような絆が生まれていた。共に鍛錬を行うようにもなり、言葉は通じなくても、二人は互いを理解し合うようになっていた。そんなある日、突然として答えが明らかになった。エデルがルナとジュア、二人の精霊と契約が成立したのだ。彼も相当悔しがっていたが、それでも彼はエデルを恨む事はなかった。そしてこう言った。
「俺は故郷を、エデルはこの世界を守り続けよう」
この言葉はエデルには理解できなかったが、彼の強い眼差しと、固く握り合った手に、その意味を何となく理解していた。
結局、何故彼が守り人であると勘違いが起きたのか、その答えだけはわからなかった。それでも守り人達は彼をもとの生活に戻そうと準備を始めた。そして、彼が故郷の星へ帰還するその日、彼は故郷を再び見る事も、家族のもとに帰る事も叶わなかった。
彼がパランディエスを旅立つ時、エデルを始めとした守り人達が集まっていた。もう二度と彼に会う事はない。全員が最後の別れに立ち会ったのだ。彼が旅立ち、その背中が見えなくなった直後、エデルの涙はピタリと止まった。まるで、直前まで悲しみに暮れていた事など忘れてしまったかのように。それはエデルだけでは無い。ジャイルを除いた守り人達も同様だった。
それから数ヶ月が経った。グリスルプスでの争いを知り、その影響が拡大する事を防ぐ為、エデルはジャイルと共にその星を訪れた。しかし、そこでもエデルは彼の話を一切しなかった。目をキラキラとさせて両族を見ていた。ジャイルはエデルに争いを止めるよう指示した。勿論、彼らとの対話は不可能。その事を知っているにも関わらずジャイルは一切その事を伝えなかった。結果、対話が困難だと知ったエデルは任務を放棄した。その後も何度も訪れ、争いの行方を観察しながら、解決策を探っていた。
答えは見つからないまま長い年月が過ぎた。そしてようやく解決の糸口が見えた。それこそがリント自身だった。リントであれば、この未だに未解決のこの任務を終わらせてくれる、エデルはそう信じていた。
彼らとの対話が可能だとわかり、争いの発端を知っていったエデル。彼の消えていた記憶が徐々に蘇っていったのだった。
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