第8話 過去
事の始まりは九百年前まで遡る。その時代、黒狼と白狼との間に「争い」という言葉は皆無だった。今のフロウとブラクのように良好な関係、強い絆があった。そんなある日、一匹の白狼が突然姿を消した。彼は白狼を束ねる時期、族長だった。つまり、彼の失踪は一族の存続の危機だった。
もともと、この星は他の星々との交流が少なかった為、疑いの目は黒狼族に向けられた。しかし、黒狼族にとっては全く身に覚えの無い出来事だった。答えの見えない言い争いが絶えなくなっていた。その間にも彼を隅々まで探したが、発見には至らなかった。
言い争いから始まった両族の溝は深まり、遂にこの時が来てしまった。失踪した彼の友人が時期、黒狼族長に奇襲を仕掛けたのだ。結果は失敗に終わったが、これを黒狼族長が許す事はしなかった。そして、族長自らが白狼族に戦争を持ち掛け、両族の争いが始まった。その争いは世代を超えながら、途方もなく長い時に渡り続くのだった。
フロウとブラクが族長になった頃、争いに疲れ、争い続ける意味を見失いつつあった。フロウとブラクが仲が良かった事も影響していたのだろう。しかし、この争いの着地点がどこにあるのか誰もわからなかった。先人の想いを無下には出来ず、それでもこれ以上の犠牲を出したくも無かった。フロウとブラクは毎日のように頭を悩ませていた。
そんな時、言葉の通じる第三者が現れた。それこそがエデルとリントだった。守り人の使命を背負う二人なら、事の発端についても、争いを止める方法についても知恵を貸してくれるだろう、そう思っていた。
リントの通訳を挟みながらその話を聞いていたエデルは、次第に様子がおかしくなっていた。何かを疑い、推測しているようだった。
「あっ、いや、まさかな…」
その言葉をリントは逃さなかった。
「何かわかったの?」
「俺はこの星を訪れる度に何か違和感を感じていた」
「違和感?」
「この星に初めて訪れたのは守り人となってからしばらくしてからの事だった」
リントはただ黙って聞いていた。二人の様子を見ていたフロウやブラクもこの時だけは口を挟まず、ただ黙って見ていた。
「勿論、その時白狼や黒狼を初めて見た。そう思っていたが、それ以前に俺は白狼に出会っていた」
エデルの話を全て理解する事ができなかったリント。そんなリントにエデルはこう言った。
「彼がいなくなった原因は俺達にあるかもしれない」
エデルは自身が守り人になった時の事をゆっくり話し始めた。それは、失われた記憶を辿るようにゆっくりと、懐かしむように。
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