第6話 黒狼の子エーフィーと2人の長
エデルの説明を聞きながら、両者の争いを見ていたリント。突然背後に気配を感じ振り返った。ほぼ同時に振り返っていたエデルが呟いた。
「人間?いや、黒狼族か?」
そこにいたのは小学生くらいの人間の子供だった。
その子供は2人に話しかけた。やはりと言うべきかその言葉はリントにだけ届いていた。
「お兄ちゃん達、だれ?」
リントはどう説明すればいいのか分からず、こう答えた。
「正義の味方かな?」
その子供はリントの言葉を完全に信じたのだろう。目をキラキラと輝かせていた。
「君は、黒狼かな?」
リントが聞くと
「そうだよ!僕は黒狼のエーフィー」
子供はエーフィーだと名乗った。2人の会話についていけていなかったエデルはただ黙って両者を見ていた。しばらくすると笑いが抑えられなくなったのか、リントの背中を強く叩き笑い出した。エデルは笑いながらこう言った。
「リント、やっぱりお前は凄いよ」
しかし、エデルの笑い声は、リントが危機感を感じる程大きかった。案の定、エデル達の存在が両種族に知られてしまった。
「大変だよ!早く逃げて!」
エーフィーが叫ぶ。見ると、黒狼族だけがリント達がいる方向に向かっていた。その目は殺気に満ちたものだった。黒狼を率いる1人が何やら叫んでいる。その声は近づいてくる程鮮明に聞き取る事ができ、リントは何かに気づいたようだった。
「もしかして君のお父さんって…」
リントがエーフィーに聞こうとするが、エーフィーの姿はそこにはなかった。
「おい!何やってる!」
エデルが叫んだ。再び黒狼族の方を見ると、いつの間にかエーフィーが立ち塞がっていた。
「辞めて、パパ!この人達は敵じゃないよ」
エーフィーの叫びは彼らの地面を駆ける音にかき消されていた。このままではエーフィーも無事では済まないだろう。リントは迷わずエーフィーのもとに駆けつけ、剣を黒狼族に向けた。エデルもリントに続くようにエーフィーを庇った。しかし、剣一本で彼らを止める事など不可能だった。何の策も無く、このまま両者の戦いが始まるのか、そう思われたその時、耳を塞ぎたくなる程の雄叫びが辺りに鳴り響いた。その声により警戒感を強める二人だったが、エーフィーは言った。
「大丈夫だよ、これは白狼のおじさんの声だ」
エーフィーの視線の先にあった小さな丘には白狼族がむれていた。その中でも一際大きな白狼が、エーフィーの言う白狼のおじさんだった。その雄叫びは黒狼族の動きを一瞬で止めた。その中で一人だけ仲間を鼓舞し続けていたが、既に戦意を失ってしまった彼らには全く効かなかった。その時、白狼族が近づいてきた。
「これだから黒狼共は嫌いなんだ。人の話も聞かないで突っ走る」
そう言ったのは白狼のおじさんだった。
「うるせえ、フロウ。いつも俺らの邪魔ばかりしやがって」
どうやら白狼のおじさんはフロウという名前らしい。
「だけどブラク、私が止めなかったらあんたの息子も巻き添えを食らっちまっていたんだよ」
「それは……」
黒狼の戦闘を走り、最後まで仲間を鼓舞し続けていたブラクと呼ばれた黒狼はそれっきり黙ってしまった。
「あの…」
リントは恐る恐る声をかけた。
「おや、私達の会話がわかるのかい?」
フロウはそう言った。しかし、すぐに表情を険しくした。
「言葉がわかるなら話は早い。君達が何者か、何故ここにいるのか教えてもらおうか」
慌ただしく巡る時間の中、白狼の長フロウ、黒狼の長でエーフィーの父親でもあるブラクと出会った。
そして、フロウとブラク、エデルとリントの会合が行われようとしていた。
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