第5話 新たな星グリスルプス
ウミガメが呼び寄せた仲間の功績で全ての魚人族を捉える事ができた。渦の発生やそれに伴う海の変化に、客船にいた人々は気づいてしまった。しかし、大きな混乱は起きる事無く、何も知らない日常へと戻っていた。戦いは拒否していたジャイルがきっちり仕事をこなしたようだった。
一方、集まっていた海洋生物はそれぞれ住処に帰っていった。あの小さなウミガメも自身の住処へと帰っていった。帰る前、二人はある約束をしていた。
地球上の海洋で何かあれば、いつでも駆け付ける。
ウミガメはそう言っていた。
多くの出来事があり、ようやく落ち着いたリント。そんなリントにエデルが後ろから声をかけた。
「やっぱり、新たな力を手にしたみたいだな」
エデルは初めての出来事にとても興奮していた。守り人が授かる力には限界があった。精霊使いであれば、精霊を喚び出す事、時使いであれば時を操る事。それにも関わらず、時使いには縁のない「言葉を持たない者との意思疎通」を可能にしたのだった。
「エデルはどこまで知っていたんですか?」
リントはそう聞くが、エデルは誤魔化すだけだった。これ以上聞いても答えはかえってこない、そう感じたリントは話を変える事にしたようだ。
「そういえば、魚人族ってこれからどうなるんですか?」
リントはエデルに聞いた。
「それなんだが、彼らとは同盟を結ぶ事になったよ」
「同盟ですか?」
「そう、一族を滅ぼさない代わりに守り人の力になる事。それを約束したんだ」
エデル達にとっても、一つの種族の血が絶える事はどうしても避けたかった。瀧翔も既に戦意を失い、反乱を起こそうとする気がなかった。同盟の話は瀧翔も納得の上だった。
「じゃあ、これで地球での任務は終了ですね」
リントはそう言った。頷くエデルだが、リントに新たな話を持ち出した。
「リントに一つお願いがあるんだ。」
「何ですか?」
「その新しい力をもう少し知りたい。ある場所に一緒に来てくれないか?」
エデルの考えはよくわからなかったが、リントは頷いた。
一方、二人の会話を全て聞いていたジャイル。
「まずいな。このままでは…」
そう言ったジャイルはどこかへと出掛けていった。
数日後、エデルはグリスルプスという星にリントを連れてきていた。この星では二つの種族が存在しているが、その関係は良好とは言えない。世代が変わった今でも争い続けていた。この争いを終わらせようとしていたエデルだったが、大きな壁が立ちはだかったのだ。それは、彼らとの意思疎通が不可能だった事。武力で押さえつける事もできたが、彼らの争いは身内だけに留まっていた。その為、対話による解決が好ましかった。そしてようやくそれが実現する機会が訪れた。地球上の生物と会話が可能なリントであれば、彼らとの対話も可能ではないかと。
リントが見たグリスルプスの景観は酷いものだった。所々に建物の残骸や争いの傷跡が残り、殺伐としていた。そんな中で二つの種族の争いが行われていた。一方は艶やかに光り輝く毛並みを持つ黒狼族。もう一方は穢れを知らず、この世とは思えないほど美しい毛並みを持つ白狼族。
「あの二人はそれぞれの種族長だ」
エデルはそれぞれの先頭に立つ者を指し示すと、そうリントに説明した。彼らは狼のようでそうではないが、完全に人間と同様ともいえない。
「彼らは上位種になると、人間に紛れて暮らす事も可能なんだ」
両種族は獣の姿でも人の姿でも生存が可能だった。上位種になれば、完全なる人の姿を手に入れる事ができる為、その殆どが種族の長となり、その血を護り続けているのだった。
エデルから二つの種族について説明を受けていたリント。そんな二人に近づく影があった。
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