第4話 新たな仲間

渦の消滅とそれらに関わっている魚人らの制圧を行っているエデル達。何とか魚人らを客船から引き離したものの完全な制圧には時間がかかっていた。


一方のリント達も瀧翔との戦いが長引いていた。両者一歩も引かない状態。しかし、数で言えば魚人らの方が格段に多い為、次第にリント達は押され始めていた。

「どうしたらいいんだ」

リントは呟いた。

「大丈夫、君ならできるよ」

突然、声が聞こえた。その声は客船で聞いた声のひとつにそっくりだった。辺りを見渡すが、その姿を捉える事はできなかった。やはり気のせいなのか、そう思った時、突然目の前にそれは現れた。それは小さなウミガメだった。

「僕ね、この辺に住んでいるんだよ」

警戒する事もなく、ただ無邪気に話すそのウミガメにリントは驚きを隠せなかった。

「リント!」

ファーマの声で我に返る。すると、魚人らがすぐ近くまで迫って来ていた。リントは慌ててウミガメを引き寄せ、攻撃を防いだ。魚人らの攻撃をに警戒しつつもウミガメの話から耳を離す事ができなかった。

「やっぱり君だったんだ」

小さなウミガメはそう言った。何の事かリントが聞くと

「逃げてる最中にね、上の方から同じ匂いを感じたんだ」

魚人らの襲撃によって逃げ出したウミガメは、客船の真下を通った。その時、客船の方から仲間がいる、と思ったそうだ。その匂いを持つ者はいつの間にか海中にいた。その姿を見る事が不可能だと考えていたが、海中にいる今がチャンスだと危険も顧みず戻ってきたのだった。

「ごめんね、君と話している暇はないんだ。すぐに安全な場所に戻すから」

そう言ってリントはウミガメを安全な場所へ行くよう促す。しかし、ウミガメから思いもよらない言葉が発せられる。

「僕達にも手伝わせてもらえないかな」

ウミガメはこう続けた。

「僕が呼べば皆来てくれると思うよ」

ウミガメの言葉をすぐには理解できなかったリント。

「でも…」

その後に続ける言葉が出なかった。

「危険なのもわかってる。けど、僕は君の力になりたい」

ウミガメは強くそう言った。半ば押し切られる形でリントはウミガメに任せる事にした。

「わかった!じゃあ、耳を塞いでて」

ウミガメはそう言った直後、ウミガメは大きな声で叫んだ。。耳を塞いでいても微かにその声が聞こえたリントは、もし耳を塞いでいなかったら、そう考えゾッとした。しかし、他の人達はその声に気づいていないのか、耳を塞ぐ様子もない。ウミガメの声を聞けるのはリントだけだった。

そして数分後、リントは遠くから多くの声を耳にしだした。声が近づくにつれ、海が徐々に荒れだした。すると、ファーマがリントの方へやってきた。この異変の中でも平然としているリントが気になったようだった。

「何が起きているの?」

ファーマの問いにリントが答えた。

「恐らく、沢山の仲間がこっちに向かってます」

リントはウミガメの方を見て微笑んだ。

「この子のお陰ですぐに決着がつくと思います」


その変化はエデル達も気づき始めていた。勿論、エデル達はその要因は知らず、魚人らの援軍が来たと勘違いしたようだった。しかし、姿が見え始めたそれらに、エデルの表情は柔らかくなった。同時に魚人らは慌てふためき、エデル達の事などお構い無しに逃げ始めていた。向かう所はただ一つ、王である瀧翔のもとだった。


瀧翔のもとに続々と集まる魚人らは、戸惑いと恐れ!不安の感情に溢れていた。

「お前達、何をしている!人間共のほうはどうした!」

誰一人説明できない中、彼らは現れた。

「何が起きている!」

ウミガメの声に反応し現れた様々な海洋生物。彼らは次々と魚人に噛み付いていく。その光景をただ見ていた瀧翔にリントは言った。

「彼らの住処を土足で上がり込んだ報いだ。降参するなら今のうちだよ」

しかし、瀧翔は降参する様子がなく、最後まで諦める事をしなかった。海洋生物の群れに飛び込み、ただ一人戦い続けていた。しかし、他の魚人らは既に戦意を失い、この戦いにも終わりが見えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る