第2話 地球に潜む影(前編)

とある海に浮かぶ大きな客船。船内は多くの人々の姿があった。皆が大切な者との時間過ごし、船内には笑い声が溢れていた。しかし、突如として客船は悲鳴に包まれる。海中に発生した無数の渦が、一つとなり客船を飲み込んでいく。瞬く間に客船は、乗客もろとも、海の底へと沈んでいった。


これが現実になれば、被害は地球全体に広がり、記憶の操作も容易ではなくなる。リント達はすぐに地球に赴き、警戒にあたった。


未来には第三者の姿はなかった。しかし、客船を巻き込む程の渦は自然には発生しない。裏には必ず何者かが糸を引いている、エデル達はそう考えていた。


地球での警戒を強化してから一週間後に事件は起きた。


その日、太平洋上に一隻の客船が航行していた。その船はかなり大きく、船内はまるで小さな町のように様々な施設があった。リントはエデルと共に船上で警戒にあたり、ファーマは水中を、エデルの使役する精霊ルナとマールス、ジュアもそれぞれの場所で警戒にあたっていた。この時もジャイルは姿を見せなかった。別の任務があった訳ではない。ただリント達の様子を自身の屋敷でただ見ていた。


太陽が真上に昇った頃、リントは船上から海を覗き込んだ。その直後、水中にいたファーマから通信が入った。全員が反応し、海の方を見た。しかし、何の変化もない。

「こっちからだと何も分からない。何がいたんだ!」

エデルの言葉にファーマは

「まだ終わっていなかった。あれは…」

そこで通信が途絶えた。

「ファーマ、どうした!」

エデルが叫んだ。しかし、ファーマからの返事はない。ファーマは「まだ終わっていない」と言った。その意味は何を指すのか。


「あれは…」

その続きを言う前にファーマは攻撃を受けた。それは客船に近づく何かによってもたらされた。攻撃は止む事なく続いていた。ファーマも応戦し始めた。そんな中、攻撃がくる方向に強い気配を放つ者がいる事に気づいた。

「誰だ!さっさと姿を現しなさい!」

その言葉にその者はゆっくりとファーマに近づいていく。その者は人の上半身を持ちながら、下半身は魚のような姿をした魚人族だった。彼の手には巨大な矛が握られていた。そして、多くの魚人族が一斉にファーマを取り囲み始めた。その者の指示があったのだろう。数名の魚人らは客船の方向へと向かっていってしまった。

「やはり、魚人族か」

ファーマが呟いた後、その者は自ら名乗った。

「我は魚人の王、瀧翔(ロウショウ)なり」

その言葉にファーマは驚きを隠せなかった。何故なら、魚人の王がいるという事は、全ての魚人がこの地球に侵入していた事になる。それだけの数にも関わらず、この日まで一切気配を感じなかったのだ。

「お前は何者だ?我らの邪魔をするのならば容赦はせんぞ」

瀧翔はそう言ったがファーマは一切答えなかった。ただ、任務を果たす為、魚人らを制圧する。それだけを考えていた。客船の方も心配だったが、ファーマは何も心配はしていなかった。勿論、エデル達がいるからだ。

「そっちは任せたよ、皆」

ファーマは客船の方を見つめそう言った後、彼らとの戦いが始まった。

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