私は思い切って、半開きの綾乃の部屋のドアを開いたの。


 綾乃がこちらに背中を見せて、ピンクのカーペットの上に横座りになっていた。・・スマホで誰かとしゃべりながら笑っている。


 えっ、綾乃が? どうして、綾乃が部屋にいるの?


 綾乃が私に気づいて、振り返ったの。綾乃の声がしたわ。


 「あっ、七海ね。ちょうどよかった。今、あなたを呼びに行こうと思ってたところなの」


 うわずった私の声が、私の口から絞り出されたの。


 「あ、綾乃。あなた、トイレに行ったんじゃないの?」


 「トイレですって? 私はずっとお部屋にいたわよ」


 綾乃はそう言うと、立って、私を部屋の中に招き入れた。


 私の頭は混乱した。私がトイレの個室のドアにかんぬきを掛けて、灯りを消して、トイレを出るときに、確かに個室のドアを内側からドンドンと叩く音がしたのだ。


 では、トイレのあの個室にいるのはいったい誰なの? 


 混乱する私の口から、かろうじて、もう一度声が出た。私はもう一度綾乃に同じことを聞いたの。


 「で、では、さっき、トイレに行ったのは誰なの? 綾乃、あなたじゃなかったの?」


 すると、綾乃がこともなげに言ったのよ。


 「ああ、あれは遥香よ」


 私は飛び上がった。


 「は、遥香ですって? 遥香が戻ってきたの?」


 「今、遥香とスマホでお話してるわ」


 綾乃はそう言うと、綾乃のピンクのスマホを私に差し出したの。私は綾乃のスマホを受け取って、絶句してしまったのよ。スマホの画面には遥香が映っていた。


 そして、遥香がいるのは・・私たちの女子寮のトイレの個室の中だった。遥香は、私が見慣れたモスグリーンの最新式の洋式便器のフタに腰を掛けて、こちらを見ながら笑って手を振っている。私はトイレの灯りを全て消したはずなのに・・スマホの画面ではトイレの灯りはついていた。


 スマホの中から遥香の明るい笑い声が流れた。


 「七海。私を早くトイレの個室から出してよ」


 私は勢い込んで、スマホの中の遥香に尋ねた。


 「遥香。あなた、いつ女子寮に戻ってきたの? それで、あなた、どうして、長く学校を休んでいたの?」

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