第36話 紹介

 高価な材料を買い、食卓には次々と料理が並べられていく。

 千絵は今までで一番腕を振るった。胃か心臓が痛い。それに反して楽しみでもある。

 晴は優等生だ。きっと連れてくる女の子は心根が優しい育ちの良いお嬢さんであろう。失態があってはならない。

 

家の掃除もしっかりとした。色々としていて気が付けば夕方になっていた。

 この時ばかりは残業せずに帰ってきた後藤も心持ち緊張しているようだ。

 娘の零が味見と称し食べてきたので、手を叩いた。

「お母さんこれ美味いなぁ」と嬉しそうだ。


 晴が帰って来る。

 連れてきた女の子は美緒という、晴より五つほど年上の所謂ギャルだった。肩透かしを喰らったような気分だ。半分ピンクで半分金色の長い髪を指で巻くのが癖らしい。手伝おうともしない。

 

後藤は気に入ったらしく、一緒に日本酒を呑んでいる。ため息が出る。勝手に期待していたのに、と。洋服の袖が破けている。気にならないのだろうか。

「美緒、洗い物手伝わんでええん?」晴が問いかける。

「手荒れるやん。美緒、肌弱いねん」くるくると髪を指で巻く。

「ええよ。何もせんで。お父さんの相手しとき」千絵は少し冷たい態度だったかもしれない。と思った。

「ご馳走様でした」と千絵に向かって言う。この時は少し考えを改めた。

 案外良い子なのかもしれない。外見だけで判断しているのかもと。

「正治呑み過ぎはあかんで」後藤は上機嫌で酒を呑んでいる。


「母ちゃん実はな、美緒と結婚しようと思ってんねん」と晴は顔を赤くし、照れくさそうに頭を掻いた。まさか晴と美緒が結婚まで行きつくとは思いもしない。

「式は挙げるん?」臭いものには蓋をしろと言うが、あまり美緒を世間に見せたくはないのが本音だ。

「挙げへんよ、同棲からやな」晴の言葉に安堵する。

「いつ?」千絵は脳が溶けるような感覚で聞いた。

「来週あたりからやな。美緒今独り暮らしで寂しがりやねん」またテレビではお笑い芸人が踊っている。美緒は酒が入り上機嫌でテレビを観て笑った。






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