第34話 俺の子
後藤が帰り、千絵は佐奈子に電話をした。
「佐奈ーあのな、実は妊娠しててん」佐奈子はえっと声をあげた。
「ほんで?産むん?」
「もう産まれたわ、男の子やで。仕返しに写メ全部送ったるわ」千絵はちらりと我が子を見る。静かに寝息を立てている。
「仕返しってなんやねん、何時間かかった?」電話の向こうで赤子の鳴き声がする。
「六時間やー。まあ安産ちゃうんかな、結婚もしたで」
「えっと、あの糞ニート?」佐奈子は笑っている。
「いや、別の人や」
「騙したんかー。悪いやっちゃなー。おー愛、ミルクかー?」女児は愛と名付けられていた。ちゅっちゅっと音がしだした。
「全部言うてるしな。名前まだ決めてないねん」
「敬とかどや?」ニヤリと笑う佐奈子の顔が目に浮かぶようだ。
「それ佐奈の元カレやんけ、あ、またかけるわー」
続けざまに後藤からラインが届く。
「写メ送ってくれ」
何十枚も撮っていたはずなのに、まだ見たいようだ。
何枚か違う角度から写真を撮っていると看護師がやってきて怒られた。
「まだ動いちゃ駄目ですよ!痴呆が早くきますよ!」
「すんません」千絵はすごすごとベッドに戻る。撮った写真を後藤に送る。
「やっぱり可愛いなぁ。俺の子なだけあるわ」と返ってきた。
天井を見ながら俺の子という言葉を反芻していた。もうそれで良いのではないか、と。
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