第28話 佐奈子の出産

 ちくわの状態がおかしく、動物病院へ連れて行くと重度の腎臓病と悪性リンパ腫と診断された。

「余命三か月ですね。先は短いのでできるだけ一緒に居てあげてください。」

 続けざまに医師は、鼻に腫瘍が見られた為「呼吸が出来なくなるので、もう少ししたら安楽死も視野に」と言った。

 

目の前が真っ暗になる。モコの最期が頭をよぎる。安楽死など決断できない。

 なぜもっと一緒に居てあげなかったのだろう、なぜもっと早く病院へ連れて行かなかったんだろう。と自責の念に駆られる。

 とにかく毎日後悔ばかりしていた。朝晩と自宅で点滴、薬を毎日飲ませ、飯が食べれなくなっていったために強制給餌も行った。

 安楽死は選べず、自宅で看取ることに決めた。

 どんどんとやせ細っていく。


 そんな最中佐奈子から着信がきた。「千絵ー産まれたでー。めっちゃ痛いな。死ぬかと思ったわー。」

「おめでとう。お疲れ様ー」

「なんや冷たいな。なんかあったん?」

 こんな時になんと言えばいいのかわからない。暗く感じる話は今は避けたい。

「いや、パチンコ負けてん。」

「あははは。千絵らしいやんか。なんぼ吸い込まれたん?」

「五万やな。赤ちゃんの写メ送ってや」

「いっぱいあるでー。全部送ったるわー。あ、ミルクの時間や。またなー」

 と電話は切れた。その後すぐに佐奈子から十数枚の赤ん坊の写真がラインで送られてきたが、どれも同じ顔に見えた。佐奈子には違う表情に見えているのだろう。


 ちくわの顔を覗きこむ。やはり苦しそうだ。先は長くない、覚悟を決めなければならないが全く何も考えられない。

 ちくわの介護が決まってから、犬二匹はいつも可愛がってくれる向かいに住む中年男性に譲渡をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る