第25話 妊娠
昔から佐奈子とはよく温泉に行く。二人で足湯に入っている時だった。
佐奈子のスマートフォンの着信音が鳴り響き、佐奈子がニヤリと笑ってスマートフォンを千絵に投げた。スマートフォンはくるくると弧を描きながら回転し、千絵は危うく佐奈子のスマートフォンを湯に浸けるところで受け取る。
佐奈子はとても短気であり、そんな事が起きたならば一生口を聞いてくれない気がする。タオルを使い湯気で湿ったスマートフォンを拭き、乾かしながら、中身を覗き見た。
それは妙な性癖を持った人間のようで、少しだけ後ろめたい気持ちになった。
佐奈子のスマートフォンの画面にはクズ人間と表示されていて、スマートフォンは鳴り続けている。
「やっと別れられたわ。親殺すってまでいわれたからな、本当に天国に行くところやったわー」と足でパシャパシャと湯を弾く。
「どうやって別れられたん?」
「簡単や、あいつの好みの女当てがっただけやで」
「でもまだスマホ鳴ってるやん」佐奈子のスマートフォンは生き物のように主張し続けている。
「出らへんから大丈夫や。そのうちに諦めるやろ。親に言う事も言うたしな」
「よう許されたなー」
佐奈子は千絵からスマートフォンを受け取る。
「親も実は身体売っててん、佐奈な、誰の子かわからへんのやって」
佐奈子は大きく伸びをした。コキコキと背骨が鳴る。千絵は漫画で出てきそうな丸い目をし、瞬きを二回した。
「殺されるよりええやろ、結局娘も同じ道や」
「ちょっと待って佐奈、まさか」最近呑みに誘っても断られていた。
「最近あいつとしかしてなかったからな、まぁそういう事や。でも言わん。トイレに流されたらかなわん」佐奈子は大笑いをしていた。
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