第18話 真実と虚像と

「うんそっか、黒井さんの家に、行ってみる」

「あ、はい。じゃあ何かわかったら連絡ください」と携帯電話は一方的に切れた。

 千絵はほとんど泣いていたが長野はあまりにも興味がなさそうだ。


 心にブラックホールでもできたような、重苦しい空気が身体を支配している。細かくは言えないが前から妙なことはあった。

 女の勘だろうか。言えるとしたら「実家に来ないでくれ」と言われていた事だろう。

 あとは実家の近くに迎えに来いと言うので(黒井の車が修理に出されていたため)行くと三時間待たされたことだろうか。

 思い返すと、住所を知られたくなかったのだろう(おおよその住所しか教えてもらっていない)三時間後に黒井は汗だくで徒歩で現れた。


 千絵は待つこと自体はそこまで苦に感じない。

 だが、黒井がのリウマチが心配で病院に行き、八時間待った挙句、連絡も取れず黒井は現れなかった。

 恐らく病院には黒井の家族がいたのだろう。待つのはそこまで苦ではない千絵でも八時間は流石に精神が削られた。


 黒井と逢瀬を重ねる場所はいつも「事務所」と呼ばれる個室で、そこでを育んでいた。家賃にして二~三万だろう。それほどに汚く、狭かった。

 育んでいたと思っていたのは千絵だけ(事務所の鍵だけは持たされていた)だろうが。

 事務所を物色し、書類の引き出しから実家と思われる住所を手に入れた千絵はすぐに車を走らせた。

 

なるほど、確かに以前待ち合わせをした場所からは遠すぎる。

 近所の人に見つかりたくなかったのだろう。

 様々な思考を巡らせているうちに実家に着いた。

 そこは到底「実家」と呼べるものではなく、千絵が以前住んでいた団地に酷似していた。

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