第17話 黒井

 千絵は佐奈子に逢いたかった。

 寂しかったのだろうが誰でも良かったわけではない。そのうちに千絵は上司に恋をした。

その男は名前は黒井という。千絵とは年齢にして十五歳違う。もしかしたら、理想の父親象を求めていたのかもしれない。

 

愛車のメルセデスベンツはいつ見ても鏡のように光っていたし、何より黒井は自信に満ち溢れていた。

 黒井も美しい千絵を毎晩エスコートし、自然と二人の距離は縮まっていった。

 毎晩豪遊とも呼べる生活を送る。

 

逢瀬の時に千絵は「初めて結婚したいと思いました」と告白した。

 黒井のそばにいれるなら豪遊と呼べる生活等しなくてもよい。

 それに対する黒井の返事は「それは男が言うものだよ。待っていて欲しい」だった。

 千絵は言われた通り従った。

 千絵には同僚に昔からの付き合いで「長野」という男がいる。

 黒井は長野とビジネス関係で繋がっており、黒井は長野から一時的に金を借り、その金で千絵と豪遊していた。理由は、事業を起こすために三百万を一か月借りる、事業を起こしたら四百万にして返すというものだった。


 結局長野には金は返ってこなかった。

 被害者は誰だったのだろう。わからない。


 黒井は結婚をしていた。長野が携帯電話で教えてくれた。

 長野は電話の向こうで煙草に火をつけた。

「千絵さん、どうするんですか?」大きく煙を吐き出す音がする。長野はそれほどまでに興味がなさそうだ。しかしつい金の件を長野に聞くと「金でしょ?当たり前に返ってきていませんよ」と笑っていた。

能天気なのか関心がないのか、長所なのか短所なのか、長野には掴みどころがない。

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