第15話 家族

 本来ペット禁止のアパートメントにモコが来てから一年が経った。すっかりと大きくなり、よく懐く気高い子だ。

「モコ、行ってくるな」と告げ頭をポンポンと撫でるようにし、休みの日にコンビニエンスストアに行こうとしたら、またダンボール箱が家の前にある。「もう開けない。」と決心をし、サンドウィッチとコーヒーを買いパチンコ屋へ向かう。

 

パインコ屋から負けて帰ると、ダンボール箱は何かを主張するように動いている。

 変形するように、ウニョウニョとそれ自体が生き物のようだ。

 道行く人は箱の中を見ては顔を歪め足早に去ってゆく。一体何が隠れているのであろうか?

 雨が降り出し、たまらずに千絵はダンボール箱を開けた。

 中には茶色いキジ猫が入っており、やはり自身の糞と、捨てた者の慈悲だろうか、

 ミルクが倒れ転がり身体にまみれている。

 

臭い。それにモコと違って声が汚い。見目も悪い。

 どうやらオスらしい。モコはメスだ。今は何もないだろうが、もし脱走等し、これ以上増える事があってはならない。

 見てしまった以上、飼うことを決心したがこのアパートメントはペット禁止だ。


  名前は「ちくわ」に決まった。キジ猫で糞とミルクにまみれた姿はまるで食べ物のちくわのようだったからだ。

 洗ってみると思いの外可愛らしい。


 こうして一人と猫二匹の生活が始まった。

 モコは生まれつき身体が弱く、よく病院へ連れて行き、ちくわは健康でその間留守番することも多く寂しい思いをさせているな、と申し訳なく感じる。

 千絵は借家に越し、本格的に「動物と暮らす」という事に腹を括った。

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