第10話 後悔と心残り
すぐに胃洗浄がおこなれた。苦しい、とよく聞くが意識朦朧としていて良く覚えていない。悟は時間を見つけ見舞いに来てくれた。
顔のミッキーマウスは看護婦が丁寧に拭い、取ってくれた。
入院期間にし七日間。悟が見舞いに来ると「よっくん来てくれたんや」と笑った。
よっくんとは中学生の頃に付き合っていた彼の名だ。
もう忘れれたはずだが、もしかしたら初恋というものは記憶に残り続けるものかもしれない。少なくとも千絵の深層心理の中では名前は残っているようだ。
思考が鮮明になっていくと死にきれなかった、その思いが頭をぐるぐると回る。
退院し、誰が伝えたのか(恐らく悟だろう)横尾が夜に家の前に遥を連れてきた。
「何してんの。何かあったら遥に失礼やろ。それにもし死んだら遥はお母さんを亡くした事になるんぞ」
横尾は心配をしてこのようなセリフを吐いたのだろうか。
千絵は下を向いたまま、
「遥を、抱っこをさせてください」と告げると何も言わずに横尾は遥を千絵に手渡した。
遥は大きな声で泣きだし隣にいる横尾に涙を流し「パパ、パパ」と手を伸ばした。
家を出てから一週間。なんとも無情であろうか。
千絵は遥を横尾に戻す。それほどまでに酷いことをしてしまったのか。遥は安心し泣き止んだ。随分と甘やかされているようだ。
母の記憶とはこのようにすぐ(八日ほどで)消えてしまうものなのだろうか。
だが、千絵は母の記憶は忘れないだろう。
この違いは何なんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます