第8話 妊娠、出産と、暴力と

 不思議と「子を堕ろす」という考えは鼻からなかった。

 高校は腹が目立ってきて二年で中退。通う必要もない。

 母が亡くなり自棄になっていたのかもしれない。

 

横尾は宣言通りに離婚し、千絵と結婚する。

 それほどまでに子を手にしたかったのだろう。無事に健康な女児を出産し、女児は遥と名付けられた。僅か十七歳で千絵は母となった。

 

出産とはこの世の中で一番と思えるほどの痛みだ。

 例えるならば、ボクサーに鳩尾を徐々に強く殴られ続けられているようだった。実際にボクサーに殴られた経験はないが。


 遥を産み落とし、横尾からの暴力が始まった。

「いい旦那さんですね」と言われ、ニコニコと近所の人に笑顔で挨拶しながらドアが閉まった瞬間殴り、千絵が倒れると蹴り続ける。

 横尾は遥には手を上げず、撫でるように可愛がった。

「離婚してください」何度も懇願したが殴られ終わる。地獄のような日々だった。

 最後は酷い暴行で、傷跡はいつまでも残っていた。

「お願いします、遥の前で殴らないで」という願いも虚しく聞き入れてもらえない。たまらずに遥を置いて逃げ出した。


 離婚は実にあっさりとしたもので、横尾は手放したものには興味が無くなる性格らしい。今はバツが四つ付いていると遥から聞いた。今の嫁にも手を挙げているのだろうか。

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