第5話 高校へ。そして

 中学三年の頃新聞配達中に母が倒れた。

 身体中が痛かったはずなのに誰にも何も言わず、ただ静かに倒れ救急搬送された。

 原因は子宮頸がん。他の臓器にも転移しており即刻余命三か月だ。

 

 母の人生において幸福はあったのだろうか。

 こんな最期を迎えるとははあまりにも不憫ではないか。

 本来進学しないつもりだったが悟が「千絵が高校に入学出来たら、母さん嬉しくて寿命が延びるかもしれんぞ」と言い、千絵は決心し、生まれて初めて勉強というものをした。後にそれは荒れた妹を抑えるための兄心だと悟った。

 足し算からだ。悟が行っている定時制夜間高校を目指したが見事に落ちた。

 所詮付け焼刃だ。


 もう一つ、第二志望の夜間高校が定員割れを起こし、テスト用紙に名前を書くだけで受かった。

 劣等生しかおらず、英語においてはAの書き方から習う。定時制夜間高校の特徴としては、働かなければならない。家には何百という借金もある。


 悟は三つ、千絵は四つアルバイトを掛け持ちした。

 家に帰ってからは母の介護をした。睡眠時間は約三時間。

 母はトイレにも行けなくなり、飯も食べれなくなっていった。

 ある休みの日、たまにはと、痩せた母を目の前にある公園へ連れて行き共に四つ葉のクローバーを探している時だ。


「千絵ちゃん、お母さんもう死ぬんやろ?」


 父から固く口止めされていたので「お母さんは子宮筋腫やからすぐに治るよ」と嘘をついた。

 悔やまれる。余命わずかだと伝え、好きなことをさせてあげたかった。

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