第3話 虐め

 母は飢える子供たちを助ける為に盗みを働いた。


 それは同僚の財布から金を抜くという短略的なもので、障がいというハンディーキャップを負った母には働くことができなかったのだ。

 保険会社に採用されたものの、契約をとることができず給料は無い。当時のというものはそういうものだった。


 ある日家族四人は警察に呼び出され、母が盗みを働く場景シーンの防犯ビデオを見せられた。

 厳重注意のみで罪には問われなかったがそれは家族全員に、恐らく脳に障害を抱えた母にも強烈な心的外傷トラウマを与えただろう。


 園児になり家では新聞屋を始めた。千絵も少ない部数ながら手伝わされた。

 悟も千絵も同級生にその姿を見られるのがある種の屈辱だった。


 それでも救いもあり、台風の日に、雨に新聞を濡らさぬようカッパも着ずに運ぶ千絵に知らない人が赤い傘をくれたことが忘れられない。


 入学式の日に緊張から便を漏らしてしまい、父がアルコール依存症なのこと、貧乏なこと、母が障がい者なことが重なり悟と千絵に虐めが始まった。

 毎日父が死ぬか自分が死ぬかと考える。

 父の顔写真に画鋲で穴をいくつも開ける日々。全てが父のせいだと考えていた。


 悟が公園で同級生たちから集団暴行を受けている時に千絵は金属バットを持って行き暴行事件を起こした。


 そんな中、公園で子犬を拾う。まず食べたのがコロッケだったために名前は「コロスケ」に決まった。

 父の暴力の対象は人へも犬へも変わらないようで家に引き取られたのはコロスケの犬生最大の不幸だろう。

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