第2話 暴力に次ぐ暴力

 虫でも殺すかのように虐待をする父の唯一許せる部分は母に手を挙げなかったことだ。

 母は脳腫瘍を患っており、足に障害もある。

 物事を深く考えることが出来ず、いつもふんわりとした人だった。

 健康な人間よりも数倍は、文字通りに命をかけて悟と千絵を産んでくれた。

 そんな母の分身とも言える悟と千絵に父は毎日暴力を振るう。

 千絵の人生において一番憫然たるものだった。


 だが言葉の暴力は発しており、母に対して苛立つ時は怒鳴るか物に当たる。大きな物音を立て自身の怒りを表現する。それに母はいつも怯えていた。

 母が逃げなかったのは半分諦めも入っていたと思う。愛していたのかもしれない。


 その頃父は親友二人の借金の保証人となり見事に二人から去られ家には何百という借金があった。

 借金取りから逃げるために何度も引っ越しをした。


 なぜか毎晩夜両親はいない。働いていたのか、何をしていたのかも今となってはわからない。

「千絵、寝ろ。寝たら腹は空かん」悟は自身に言い聞かすように千絵を慰めた。

 千絵は「兄ちゃん腹減って寝れんよ」といつも悟を困らせた。


 とある引っ越し先は風呂のない病院の跡地だった。滞納していたが、家賃にして五万ほどだった。

 真冬、雪の降る夜銭湯から母と帰ると悟が顔中血だらけにし、裸で家の外に締め出されていた記憶は消えないだろう。


 悟は母と千絵に気付き「父ちゃんがまた酔って家入れてくれん」と泣いた。

 絵が殴られている時母は「やめて。千絵が死んじゃう」と涙を流してくれた。


 母と悟の涙はこの世で一番美しい涙だと感じた。

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