第5話 装備を整える

 ヨルムは玄室の奥に鎮座する魔術師ワドナーの遺体に近寄る。あろうことか魔術師ワドナーが着ていたローブを剥ぎ取る。

 さらにワドナーが腰掛けていた玉座の背後に回る。そこには宝箱があり、ヨルムは鼻歌交じりにそれを開ける。そこから何やら取り出し、エレノアの元に戻って来る。


 ヨルムの言う通り、この部屋にたどり着くために装備のほとんどを捨ててきた。金獅子と対峙するにはそれなりの装備が必要なのは、エレノアには理解できた。だからと言って遺体が着ていたものを奪うのは気が引ける。

「ここに置いといたら文字通り宝の持ち腐れよ」

 ヨルムは手に持った装備品をエレノアに差し出す。一つは魔術師ワドナーが着ていた灰色のローブでもう一つは革鎧であった。

 その革鎧を見て、エレノアは顔を引きつらせる。頰が勝手にひくひくとけいれんした。

「ヨルム、これはいったい……」

 エレノアは手に持つ革鎧を注視する。

 その革鎧は目の冴える赤色をしていた。燃えさかる炎を連想させる。とある部分だけを守るものだった。その部分とは、胸部と股間だけだった。

 これを鎧と呼ぶにはあまりにも守る部分が少なすぎるのではないかとエレノアは考えた。

 それに落ちぶれたとはいえ、伯爵家のものがこんなハレンチなものを着用するわけには行かない。


「まずはこのローブは隠者のローブというのよ。かの魔術師ワドナーがつくり出した伝説級のものよ。そして極めつけはこのビキニアーマーよ。これはかの戦女神モルバの加護が付与されたものよ」

 自慢気にヨルムは小さな胸をはる。

「こんなものが……」

 エレノアは半信半疑だ。

 戦女神モルバはこの大陸で信仰されている七柱の女神の一柱である。モルバは戦と炎、鉄を司る女神でその髪は業火のように赤いと言われている。

「戦場で肌をさらすという勇気を示すことによって、戦女神モルバはその加護を与えると言われているわ。さあ騙されたとおもって着てみてよ」

 ヨルムはその戦女神の鎧を着用するように促す。仕方なく、エレノアは一度全裸になる。

 そのエレノアの姿をヨルムはまじまじと見つめる。

「これはこれは豊穣の女神アルシアを彷彿とさせる見事な実りね」

 じろじろとヨルムはエレノアの豊かな胸の膨らみを見る。同性ながらこうもじっくりと裸を見られると恥ずかしさのあまりエレノアは頰はおろか耳の先まで熱く、赤くなる。

 さすがに裸でいるのは恥ずかしすぎるので、エレノアは戦女神の鎧を着用した。

 エレノアのメロンのように豊かな胸と尻はその烈火の革鎧に包まれる。サイズは驚くほどぴったりでまるで自分のために作られたのではないかと思われるほどだ。

 戦女神の鎧を装備した途端、エレノアの心から羞恥心が完全に消えた。代わりに勇気と希望が体の奥底から湧いてくる。

 それにこの鎧のフィット感にエレノアは快感すら覚えていた。

 この鎧に戦女神の加護があるのは着用した自分自身がよくわかるとエレノアは思った。この鎧を着たあとは今まのフルアーマーはただただ鈍重にさせるだけの代物に思えた。


「どうやら気にいってもらえたようね」

 満面の笑みをヨルムは浮かべる。

 ヨルムは玄室の隅にいき、長さ一メートル強の鉄棒を重そうに抱えて、こちらに持ってくる。

 それはよく見ると闇のように黒い鉄槍であった。

 エレノアはそれを両手で受け取る。

 ずしりと鉄の重さが身にしみる。

 両手で握り、ぐるりと振り回す。

 重いがエレノアは使いこなせると考えた。レベルが上がったからだろうか体に力がみなぎっている。

 今の自分ならあの閉じ込められた部屋にいた魔物たちも蹴散らすことができるだろうとエレノアは思った。

 ヨルムが語るにはその黒鉄の槍は唯一この階層までたどり着いた戦士が持っていたものだという。その戦士はこの階層にたどり着いた直後に死んでしまったという。


「ふむふむ、これなら見る人を魅了してやまないわね」

 槍を塗りまわすエレノアを眺めて、ヨルムは顎先に手のひらをあて、感想をもらす。槍が風車のように回ると同時にエレノアの豊かな胸も揺れていた。


「さて、それでは地上に戻りましょうか」

 ヨルムはエレノアの肩に隠者のローブをかける。

 すでに恥ずかしさはなくなっていたが、戦女神の鎧だけで地上に戻るのはまずいとエレノアも思った。


 エレノアとヨルムは昇降機エレベーターに乗り、魔術師の迷宮の第一階層に帰還した。

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