王都観光へ

それから1夜明けた。



何と言うかめちゃくちゃ眠い。

昨日から実況見分やら報告書作成やら会議やらを突貫でやっていたのでほぼ寝ていないのだ。


ガブリエルを鍛えた後、軍司令部に戻って皆に色々と報告をして帰ろうとしたのだが、そのまま爺ちゃんに掴まって後処理を手伝わされる羽目になってしまった……。


10歳児を無給で夜通し働かせるとか現代日本なら確実に労基案件だ。やはりファンタジー世界は野蛮らしい。


それにファンタジーならファンタジーらしくいちいち紙ベースで報告書を要求して来ないで欲しい。



ともあれ、その甲斐あってか事態は概ね俺の思惑通りに動いた。


王家は即日ダミアン公爵逮捕要請を撤回。

そしてガブリエルの病気が完治した事、そして改めて正統な世継ぎであると王直々の宣言。

マリー・エルネスト第2妃とランドマーク侯爵にはそれなりに重い罰が言い渡される予定との事だった。


次何かやらかす時は絶対誘えと真顔で言ってきた爺ちゃんがちょっと怖かった……。


どうやら自分だけ蚊帳の外だったのが気に食わなかったらしい。


なかなか難しいお年頃だ……。



―――しかし、第2妃と侯爵への厳罰ってのは微妙だったかもな。


何と言うか中途半端な結果になっちまった。


『I see。何となく具体的な運命の改変方法が見えてきましたしね。もう少し欲張っても良かったかもしれません。』


ああ。必要なのはキャラへの理解―――。

そしてその原因の除去もしくは矯正だな。



現在の俺の15歳時点での死亡確率78%。


これは今回の事件でゲームの攻略キャラであるガブリエル、ミカエル、ウリエルの3人の王子と関わった事による影響だと思われる。


特にウリエルへの影響が大きいはずだ。


アイツはゲームだと俺様キャラ、しかも選民的でかなり尊大な性格だったらしい。


そしてその根源はほぼ間違いなく母親である第2妃であるマリー・エルネストだろう。


今の時点で母親の影響をある程度取り除けた事でウリエルの性格に影響が出て、5年後の俺の死亡確率に影響が出たんじゃないだろうか?


完全な母親の影響を除去は出来なかったが、少なくとも方向性くらいは変更出来たと思う。



『I agree!同じ双子でも根が素直なウリエルは母親の影響を大きく受け、根がひねくれたミカエルは母親とは疎遠に、しかし完全な反抗も出来ずに無気力な性格になって行きます。』


ウリエルは分かるけど、ミカエルはひねくれてんの?乙女ゲームのメイン攻略キャラだよね?


『Yes。いわゆる腹黒王子キャラですね。後は熱血系とクール系、セクシー系がいます。』


あ、攻略キャラは一旦無視で。

いちいち関わるほどの影響はなさそうだし。


しかし、そうなるとやっぱり第2妃は完全に排除しちまった方が良かったか?


いや、俺が直接やるとウリエルから恨まれるだろうしなぁ……。んー、この場合いっそ恨まれた方が良いのか?


『uuum……。まぁ殺害してしまうと取り返しが効きませんしね。なるべく最後の手段にしておきましょう。』


いや、殺らねぇよ!?

やるのは失脚とか社会的な排除ね?


さすがにそんな事をシレッとやるほど実家に染まってないし、目覚めが悪くなりそうだ。



……しかし、遅いな。―――あ、来た。

道の向こうから公爵家の家紋を施した重厚な馬車がやってきた。



「アルくん!お待たせー!」



軍施設の正門前で待つ俺に向かってユーリが手を振ってやって来た。


今日は兼ねてからの予定通り、王都の観光に繰り出すつもりなのだ。


昨日は色々あって何も出来なかったからな。


ユーリは白のサマードレスに薄い黒のカーディガンを羽織ったお嬢様然とした格好だ。

手にはオシャレなハンドバッグを持っている。



……前から思ってたけどこれ時代背景どうなってんだ?一応、中世とか近代とかだよな?

申し訳程度にファンタジーっぽい意匠は入っているが、普通に現代日本でも通用しそうな着こなしだ。


いや、可愛いよ?ユーリによく似合ってる。

でもファンタジーを理由に好き放題やってる様な気がする……。


『OOPS! JRPGに細かな時代背景まで求めるのはむしろイキではありませんよ?マスター。』


チラリとユーリを見る。


今日は王都観光だからか、普段しない化粧を薄らとしている様だ。それが良い感じにユーリの魅力を引き立てている。


まぁ、可愛いから良いか……。



「ねぇアルくん。なんでまだ軍服なの?格好良いし似合ってるけど、暑くない?」


当然、暑い。


夏はまだ先だがこんな天気の良いに日に真っ黒な黒コートとかホントにどうかしてると思う。

やっぱり脱ごうかな……。



「坊ちゃん。軍服は脱ぐなよ?王都は割と治安がしっかりしてるけど不埒な輩がいないとは言えないんだ。それを着てりゃあ余計なトラブルには巻き込まれにくい。」


コートを脱ごうとすると正門の影からクーガーが声を掛けてくる。


まるで俺の心配をしているような口振りだな。


『Non!Master。クーガーが心配しているのはマスターが引き起こすトラブルです。』


お、俺は悪くねぇ!

悪くはないが、取り敢えず軍服で過ごすことにしよう。うん。


「クーガーは来ないのか?何ならお前が軍服を着て付いてきても良いんだぞ?」


「その代わり昨日の事件の後処理を坊ちゃんがしてくれるならな。まだまだ細かい雑務が山のように残ってんだぞ……。」



「―――よぉし!ユーリ!子どもは子どもらしく遊びに行こうぜ!」


戦略的撤退。これ以上面倒事にならない様にさっさと馬車に飛乗る。兵は神速を貴ぶってな。


前に向かって逃走だ!



「―――あれ?リリーはどうした?」


ガタゴトと馬車が動いてからリリーが乗っていないことに気付く。


確か昨日はユーリの家に泊まると言って2人でロウエル家のタウンハウスに帰ったはずだ。



「えっとね、冒険者ギルドに用事があったらしくて一足先に街に行ってるよ。ギルドで待ち合わせしてるんだ!」


おぉ!冒険者ギルド!


ファンタジーものにはお約束の所属が不明瞭な謎の武装勢力!あれって国営なの?私営なの?

国を跨ぐ超国家組織だったりするのだろうか?


昼間から飲んだくれてるゴロツキがいたり、大金持ちで国家を揺るがす人間兵器みたいなSランク冒険者とかいるんだろ?資本主義の権化みたいな組織だよな!


ユーリもギルドに行くのが楽しみなのか、何だかワクワクしているみたいだ。


こいつは楽しみになってきた!

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