冒険者ギルドにて

冒険者ギルド。


古今東西のファンタジー作品ならかなりの高確率で出現する武装勢力だ。


構成員の殆どが街中だろうが店中だろうが常に帯刀と言うか武装し、時に抜刀しても許される殺伐とした組織。


強さに応じてランクが決まっており、上位層になると街とか国とかも潰せる超常的な武力を有しているのはお約束だ。


さらにギルドカードなる構成員証明書は圧倒的な身分保障能力を有し、見ず知らずの街や国でもほぼフリーパスで好きなだけ滞在出来る。


当然、武装したままでOKだ。


そんなテロリストの温床になりそうな恐ろしい組織だが加入するのは驚くほど簡単だ。


受付にいる可愛くて巨乳のお姉さんに声を掛けて特定の用紙に名前を書くだけ。大抵代筆もしてくれる。


―――こんな認識であってるか?



『……うん、まぁ、大筋は合ってます。』


何やら人間くさい反応でナビィが答える。

何だよ?大抵ファンタジー作品ならギルドの認識なんかこんな感じだろー?


「ねぇねぇ!アルくん!やっぱりギルドに入ったら酔った熟練冒険者に絡まれたりするのかな?

それで上位冒険者に助けて貰ったり!」


ほら、この世界産まれのユーリも同じような認識じゃあないか!



もう勝手にして下さいHave it your way……。』


え、何て言った?your way俺のやり方

俺のやり方でOKって事?



「アルくん!あそこじゃない?」


ユーリが嬉しそうに大通りの一角を指差す。


見た目は3階建てくらいのレンガ造りの建物だ。

入口は広く造られ、開放的な印象を受ける。


中には大きなカウンターがあって受付の人達が働いているのが見えるが、受付に並んでいるのはどう見ても一般人だ。



「……何かイメージと違うね。冒険者の人達も全然いないし。」


確かにそうだな。まるで小綺麗な役所の受付みたいな感じだ。ナビィ、どうなってんの?


『Well、こちらは依頼者用の受付ですね。表玄関は依頼者用、裏玄関が冒険者達用に分かれております。』


ナビィの説明をそのまま伝えるとユーリはイタズラっ子っぽく笑う。


「……やっぱりリリーがいるのは裏口の方だよね?私達は依頼をする訳じゃないし、こっちに入るのは違うんじゃあない?」


「そうだよな。依頼者でもないのにこっちから入るのは業務の妨げになるかもしれない。うん。致し方ない。裏口に回ろうぜ!」


「やっぱりアルくんもギルドに興味あるんだね!さっきからずっソワソワしてるし!」


「ユーリもだろ?折角の機会なんだし、やっぱり行くなら裏口だろ!」


だよね!なんて笑いながらユーリと馬車を降りて裏口に回ると、そこは俺のイメージ通りの冒険者ギルドがそびえ立っていた。


薄汚れた無骨な外観。

西部劇でよくみるスイングするドア。


中にはいくつものテーブルがあって冒険者っぽい人達が楽しそうに昼間から酒を呑んでいる姿が見えた。


ドキドキしながら中に入る。

キィっと音を立ててスイングドアが開いた。



広い部屋だ。


おそらく忙しい時には冒険者達の長蛇の列が並ぶのだろう。1番奥にはカウンターがあり、その前にはかなり広いスペースが確保されている。


窓際には様々な依頼が書かれた短冊が貼られているのも見える。


おぉ!あれがクエストボードってやつだな!


そこに併設されるように頑丈そうな大きな丸テーブルが何脚も置かれ、数十人の冒険者達が座っている。


壁には何やら剣やら槍やら斧槍ハルバートが飾られている無骨な意匠だ。


多分、あの武器達は飾り用じゃなくて本物だな。


―――変だな。さっきまでは楽しそうに呑んでいたのに今はシーンとしている……。


これはあれか!?

余所者が入って来たのでちょっと喧嘩をふっかけようとするヤツか!


この人数で囲まれるとちょっと不味いか……?



そう思って軽く身構えたのだが、おかしなことに冒険者達に動きがない。


何だろう?チラチラとこっちを伺ってはいるが、どいつもこいつも俺と目を合わせようとはせずに俯いている……。



「ん?どうしたの?アルくん。ここにはリリーはいないみたいだし、受付で聞いてみようよ!」


ま、よく分からないことを気にしてても仕方ないな。ああ、とユーリに相槌を打ってカウンターに向かう。


―――が、受付嬢すらも目を合わせてくれないだと……!?


こ、これはもしかして……。


『Yes。どう考えても避けられてますね。マスターが貴族で軍人なのは服装で分かりますし、面倒ごとを避けようとするのは普通なのでは?』


俺は民間人だよ!?確かに貴族だけど、この格好は言っちまえばコスプレなんですけど!?


誤解を解こうと話しかけたいのだが、受付嬢達は一向に目を合わせてくれない。


途方に暮れているとカウンターの奥から声を掛けられた。



「あー、軍人の旦那。ウチのモンがすまねぇな。俺ぁここのギルド長をしてるエギルって者だ。俺でよけりゃあ話を聞こう。」



そう言いながらパパンとタメを張りそうなアメコミヒーロー然としたマッチョマンが来た。


おそらくナチュラルな感じのスキンヘッドなのだろう。額から後頭部までは髪が全くないが、もみあげから後頭部までは黒々とした髪が生えている。


恐らくは元々高名な冒険者だったんじゃないだろうか?


何と言うか貫禄があるし、右のこめかみから左顎にかけて大きな刀傷が走っている。



いやいやいや、この人の厳つさに比べたら俺とか可愛いもんじゃない!?何でこの人が許されて俺は拒否されんだよ!


くそ。世の中理不尽だ……。



「……アルフォンス・アーネストだ。手を煩わせてすまない。」


そう言って右手を差し出すとニヤリと笑ってギルド長はガシッと握り返してきた。


「……ほう!その金髪金眼、やっぱりアーネストか!懐かしいな!戦場じゃあ先代や先々代を見掛けたっけ……。」


八つ当たり半分どころか純度100%の八つ当たりでタメ口で答えるが気にした様子もない。


これが大人の余裕なのだろうか……?


「初対面の戦士に対して利き手の握手は友好の印を示す、ってのは傭兵の流儀だな。古き鉄の誓いオールドアイアンのトールズは元気にしてるかい?」


「村長を知ってるのか!?―――元気にしてるよ。孫がなかなかのヤンチャ坊主で手を焼いていたがね。」


「あぁ、トールズ達とは昔戦場で何度かな。あの血戦鬼に孫……孫かぁ……。俺も歳をとる訳だ……。」


何やら遠い目をするギルド長。

昔を懐かしんでいると言うより、自分の年齢を再認識して黄昏ている感じだ……。


前世ではアラフォーの独り身だったから気持ちは分かる。


「あー、それで、だ。たいした話じゃないんだが、冒険者のリリー・オールドアイアンって知らないか?」


リリーの名前を出した瞬間にギルド内の空気がザワつく。



「や、やっぱりリリーは何か事件に巻き込まれたんですか!?」


まだ若い冒険者が声を掛けてきた。

歳の頃は10代後半くらい、薄い茶髪を三つ編みのおさげにした魔法使い風の少女だ。


周りに立っている同い年くらいの冒険者達が止めておけとか貴族だぞとか小声で止めに入っている。


そんなに警戒しなくとも良いんじゃよ……?



「君は……?」


「あ、えっと、私はモニカ・オースティンって言います。リリーとは、そのと、友達で……!」


リリーの冒険者仲間だろうか?

そう言えば基本的にはソロでやっているが、たまに同業者と一緒に仕事をする事があると言っていたな……。


「あ、朝ギルドに来る時にこれを見つけて……。こ、これ前に私達皆でお揃いで買った短剣なんです……。」


モニカと名乗った少女の手には刃の真ん中から真っ二つに折れたナイフを持っている。



そしてナイフの持ち手にはリリー・オールドアイアンの名前が彫られていた。

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