王太子
俺の足元で土下座をしなかまらブツブツ何事か言っているのがエルネスト王国第1王位継承者。王太子ガブリエル・エルネストだ。
銀髪紫瞳の優男で見た目はかなり良い。
歳は俺より8歳上らしいので、確か今は18歳かな?
ユーリの兄とは同い年なので割と仲が良いらしい。こんな変な奴と仲が良いとかユーリの兄は聖人かなにかなのだろうか?。
コイツの人間性を理解する上でゲームの設定への理解が大事になってくる。
俺が放り込まれた『ドキドキめもりある』というゲームは乙女ゲーだ。
つまり、攻略対象が存在する。
そしてメイン攻略キャラとなるのが何を隠そう第2王子であるミカエルなのだ。
恐らくだが、ガブリエルはストーリーの都合上生まれたキャラなのだと思われる。
やっぱりメイン攻略対象は王子だよね!
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でも王太子にしちゃうと世界を回るヒロインと一緒に旅をするっておかしくない?
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なら第2王子で良いか!
噛ませ犬に第3王子も出して双子王子だ!
双子の対立とか描写するから王太子は影を薄くしよう!
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どうせなら王宮のドロドロも描写したいなぁ。
なら黒幕は第2王妃にしよう!やっぱり側室は悪役で決まりだよね!
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国や民の為に自分の親を断罪する王子とかストーリー的にも燃える展開だよ!
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でもメイン攻略対象の王子が王になるルートも作りたいなぁ。
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なら王太子はもっと影を薄くしよう!それなら話の都合で王太子を殺しても良いし、メイン攻略対象の王子が王にならなくても目立たせる事も簡単だし!あ、でも王太子を殺した時、話が盛り上がる様に兄弟仲は良くしとくかー。
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ビジュアル的には良い感じにできたし、一応隠し攻略キャラにしとく?
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あ、なら良い感じのスキルを付けよう!
最初は弱いけど育てたら強くなるとか良くない?
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初期値はデバフをモリモリにして一定レベル超えたら強くなるみたいな感じでヨロ!
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よーし、それならストーリー的にも病弱設定を追加しちゃお!
多分こんな会話が制作中にあったと思われる。
そして出来上がったのが、王太子の癖にやけに腰の低い兄弟想いのヘタレで根暗な病人と言う何だかよく分からない謎のキャラと言う訳だ。
「いや、もうホント生まれて来て申し訳ないとは思っているんですよ?まともに剣も振れないし魔法も撃てないし、頭はまぁ悪くはないですけども。だから私が死んでも弟達が無事なら国にとってもその方が良いのかなって思うんです。あ、でも痛いのは嫌なんで優しく殺してくれたら嬉しいかなって、あ、でも別に死ななくても良いんならその方が嬉しいのは確かで――」
何やらキョロキョロと視線をあちらこちらに向けてブツブツ呟くガブリエル王太子。
土下座は見栄えが良くないので止めさせた。
不審な動きをされると困るので念の為クーガーが縄で縛り付けたのだが、今度は直立不動で死んだ目をしてひたすら喋り続けている。その様は軽くホラーだ。
「坊ちゃん……。これはもう駄目かも知れませんね。戦場で恐慌状態になった奴がこんな感じでした。」
真顔で進言してくるクーガー。
うん。まぁそうなるよな。
これはもう体調云々の問題じゃないよな。
ぶっちゃけコイツを王位継承権の第1位にしているのは何かの間違いだと思う。
俺も先にこの有様を見てしまっては普通に側室派になっていた可能性があるのは否めない。
「だが、ここらでこのヘタレをどうにかしないとな。下手すれば国を二つに分ける内戦になる可能性もある。」
と言うかなる。
ナビィ曰くフラグの管理次第ではあるのだが、王宮関係のフラグをミスるとこのタイミングからでも第2妃が勝手に双子を旗印にして反乱を起こすらしい。ゲームの話だけどな。
「……まぁ第2妃を暗殺しても良いんだけどな。今のタイミングならこのヘタレを鍛える方がいくらか建設的だろ?」
もうどうしようもないレベルなら殺害するしかないが、むしろ今は政治的にも優位な立場だしな。
このヘタレさえまともになればどこの誰にもコイツの正統性を否定出来ないだろう。
さて、と一息して腰に差した剣を抜いてガブリエルの縄を斬る。
勘違いしたヘタレがうわぁーとか斬られたーとか叫ぶが俺はそれを無視して冷静に声を掛けた。
「はじめましてガブリエル王太子。私はアルフォンス・アーネスト。この度は殿下と友好の義を結びたく厚顔にもお呼びした次第です。」
「……この状況で友好とか厚顔を通り越して狂気を感じるよ。」
ミカエルがツッコミを入れてくる。
「うるさいぞ。大体お前の家の家庭問題のせいでこっちは苦労してるんだ。むしろお前が何とかしろよ。」
「それは僕としても何とかしたいとは思ってるんだけどね。兎も角、逃げるつもりはないから僕達も縄を切ってくれないか?」
流石はメイン攻略対象様。
大人顔負けの冷静さと胆力だ。
いや、大人ですら自分を拉致した人間に自然にツッコミを入れ、逃げ出さないから縄をほどけなんて早々言えはしないだろう。
やっぱりこんな子ども気持ち悪いわ。
……俺も気をつけよう。
まぁ俺としてもずっとコイツらを拘束しておくつもりはないので、縄を斬ろうと剣を抜く。
「ま、ま、待て!!み、ミカエルに何をするつもりだ!!!やや、るなら僕を倒してからにしろ!!!」
ガブリエルが俺の前に躍り出て拳を振るう。
ガギィン!っとおよそ生身が出すとは思えない硬質な音が辺りに響く。
おいおい、マジか。俺の障壁に罅が入ったぞ?
くっくっ。流石がはドキめも最強キャラだ。
これこそが最強スキル『天元無双』。
このスキルこそがドキめもで最も強いスキルなのだ。
消費魔力やリキャストタイムが通常の2倍になる代わりに全ステータスが3倍になり、さらにあらゆる攻撃も3倍の威力になると言う破格の性能を持っている。
そして病弱と言う設定もこのスキルから来ている。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ…。み、ミカエルは、ぼ、僕が…ま、守るんだ…。」
パンチ1発で体力の全てを使い切ったのだろう。
まるで全力疾走をしたかのように、汗だくで息を切らして倒れるガブリエル。
そう。このスキルのデメリットがこれだ。
つまり異様に疲れやすいのだ。
レベルが1桁程度ではデメリットの方が大きく、多少強い攻撃が撃ててもすぐに力尽きる貧弱キャラ。
コイツがレベル10を超えると普通に戦えるようになり、20を超えるとメリットがデメリットを完全に上回り、40も超えると小技を連打するだけで無敵に成り代わる。
そうなるとやる事は1つ。
ダバダバと体力回復のポーションをガブリエルにかけながらニヤつく。
こんなのを見せられたら仕方ない……。
「さぁガブリエル王太子。起きて下さい。
一緒にレベル上げをしましょう!」
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