どうしてこうなった?

その森は王都の近くにある。


古今東西、どんなRPGにでも出て来るであろう初心者向けのチュートリアルな狩場。


ドキめもだと学園に入学後、初めての戦闘の授業で使われたり、ギルドに登録したりすると初心者は先ずここに行けとNPCから言われる森らしい。


出てくる魔物も低レベル。

うちの村基準なら幼児でも気軽に倒せるレベルだから一般人でもまぁ普通に倒せるだろう。


今回の目的は王太子の言わばレベル上げだ。


病弱だと思われる程デバフのかかった状態らしく、それを解消する為にはスキル運用の特訓。


ゲーム的に言うなればスキルレベルを上げる必要があるのだ。



軍の第5演習場もこの森の一角に建築されていた。演習場と言っても森の一定区域を囲っただけの簡素なつくりだ。


大人数で演習が出来るようにそれなりの広さがあった。



「……これはどう言う事だ?」



演習場の中心には大きな広場があり、その近くには3階建て位の大きな監視塔が設置され、演習場全体を見る事が出来る。


演習時に広場に部隊を整列させてここから部隊全体に指示を出すのだろう。



監視塔の屋上に設置された椅子に腰掛け、辺りを見渡すと広場の付近には大量の木箱に入った物資が積み上げられているのが見える。


中身は体力回復薬や魔力回復薬、治療道具などの衛生用品。剣や槍、弓や斧などの武器に鎧や盾等の防具類。テントや寝袋、食料品も充実している。


そして1番目を引くのが地面に何個も置かれた鋼鉄製の檻。中身はどこかで捕まえてきたのだろう。大量の魔物が閉じ込められていた。



『Now, I get it!即席の闘技場の様ですね。』


そうだよな。オブラートに包んで闘技場……、ぶっちゃけ処刑場にしか見えない。


罪人と魔物を戦わせる古代ローマの風習だ。



「おいおい、アル!人が折角セッティングしたのに不満なのかよ?」


呆然としていると横に座ったエイブラムス伯父さんが声を掛けて来る。



「……いや、そういう訳ではないだけどさ。あー、一応聞いとくとあの大量の物資は何さ?」


数百人分はあろう木箱に詰められた物資を指さす。


「あん?要は軟弱な王太子を鍛えたいんだろ?ならこの程度は用意しといた方が良いだろうが。特訓するなら徹底的にやるのが常識だ。」


うん。それアーネスト家ウチの常識だよね?普通は何日も泊まりがけで特訓したりしないんだよ?


これじゃあまるでどんな大怪我を負ってもどこまでも戦わせ続けようとしてるみたいだ。



「……あの檻に入れられた凶悪そうな魔物は?」


どう見ても初心者向けではない魔物が何十個もの檻の中で蠢いている。


帰らずの森の魔物ほどではないが、そこそこ強そうな魔物もチラホラ見受けられる。



「ふふーん。それは私達の優しさよ!こんなしょぼい森の魔物を何千匹倒しても何の足しにもならないもの!やっぱり特訓するなら命を幾つか賭けなきゃ効果が薄いわ!」


何やら自信満々なドヤ顔でオードリー叔母さんが胸を張る。


普通、生命は1つだけだと思うんだ。オードリー叔母さん……。



「さてアルフォンス、私達は忙しい。司令部に戻るからここは任せたぞ。」


途方に暮れているとパパンとママン、伯父さん達はそう言ってさっさと帰ってしまった。


一応あの人達は軍の上層部だしな。

これとは別にやらなきゃならない仕事が立て込んでいるのだろう。


まるっと丸投げされたとも言う。



……何が怖いってさ。


あの2人は嫌がらせでも何でもなく、本当にこれが常識や優しさ、気遣いだと思ってやっているという事だ。


地獄への道は善意で舗装されているとはよく言ったものである。


『I know!ヨーロッパの格言ですね。よくご存知です。』


あぁ、うん。スティーブン・キングとか好きだったんだ。あー、また読みたいなぁ。

そう言えば読まずに積んでいた本も多かったんだが、もう二度と読めないのかなぁ……。



「おい!貴様!これはどう言う事だ!!聞いていた話と違うではないかっ!やはり俺達を処刑する気かっ!」


「状況を説明しろっ!軍部は王家に弓を引く気なのかっ!?」



なるべく視界に映らない様にしていた事実が俺を妄想の世界から現実に引き戻しに来る。


監視台の屋上に、つまりは俺の背後に設置された磔台。そこに仲良く磔にされている双子の叫び声が聞こえる。



何でこんな事に……。


いや、答えは分かっている。

何せコイツらを餌にして王太子に特訓をさせようと言い出したのは俺だ。



「いや、本当に馬車で説明した通りお前達の兄貴である王太子のスキル訓練をするつもりだったんだが……。―――俺が想像していたのより若干絵面が悪いかもしれないな。」


いや、ホント。何でこんな事になったんだ?



「お前もう最悪だなっ!頭おかしいのか!?」


「分かった。君さては何も考えてないな?ノリと勢いだけで生きているだろ!」


ギャーギャーと騒ぐ双子王子。

言っている事は向こうが正しいのだが、これはある意味仕方がなかったのだ。


ナビィがあのときコイツらを巻き込もうと言い出したのも間違いなくこのせいだろう……。



そう。まさか王太子がこんな奴だったなんて思ってもなかったんだ……。




「すみませんすみませんすみません!せめて弟達だけは助けて……あ、でも出来るなら私の命も助けて貰えるなら嬉しいです。いや、もうホント許してください。僕なんか王太子の器じゃないんです。何なら王位継承権も要りませんし、王族から席を抜いて貰っても……」



俺の足元で土下座をしながら謝り倒す銀髪の優男。


これが我が国の王太子、ガブリエル・エルネストである。

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