強襲(味方含む)

貴族街は王都の北側一帯に広がっている。


領地を持たない王都住まいの貴族達の家やウチやロウエル公爵家などの地方領主が王都に来る際に使う屋敷、通称タウンハウスが固まっているエリアだ。


貴族文化が華やかりし18世紀くらいのイギリス辺りで見られた文化だな。


社交界のシーズンや仕事なんかで定期的に自領と王都を皆行ったり来たりしているらしい。


前世では正真正銘の一般ピーポーな俺からするとムダの極みみたいな文化だが、この時代の貴族は文化と経済の担い手だ。


貴族が動く事で仕事が生まれ、経済が回る。

貴族が国内を移動することで移動先の村や町にお金を落とすし、当然その道中の街道整備や治安維持向上が見込めるのだそうだ。



馬車の窓から外を眺めると貴族街の閑散とした景色が目に映る。


閑散と言うかこの場合は閑静な住宅街って言うのかね?


家1軒の土地がかなり広く取られ道幅も広い。

家と言うより屋敷だな。


徒歩というより馬車での移動を前提とした街づくりをされている。



「坊ちゃん、先鋒隊から連絡があった。無事に中将と特務大佐は合流したそうだ。ウチの連中は現在中将達の指揮下に入って件の屋敷を監視しているとの事だ。」


馬車の中で通信魔法で連絡を受けたクーガーが報告して来る。


「ちなみにガブリエル王太子が居るのは確認取れたか?」


ナビィ曰くゲームでは旧男爵屋敷に囚われていたらしいのだが、今回はどうなるか確信はないからな。


「ああ。明方付近に不審な馬車が旧男爵屋敷に入ったのを見たと言う証言があった。監視魔法の映像からも確認が取れたからほぼ間違いないだろう。」


監視魔法!そんなものもあるのか!

まるで監視カメラだな……。


ものの数十分でそこまで判明するとは、この国の徹底された監視社会ぷりを嘆けば良いのか、

不可視の短剣インビジブルダガーの諜報能力を褒めれば良いのかどっちなんだろうな?



「しかし坊ちゃん。後ろのはどうするつもりなんだ?扱いをミスったら処罰モンだぜ?」


馬車の後ろに積み込まれたまるで人が入っているようなフォルムの荷物が2つ。


うん。まぁ王子達だ。

騒がれると面倒臭いので魔法で眠らせている。



「どうするつもりって、そりゃあ人質だよ。」


むしろ貴人を拉致した使い道なんかそれくらいしかなくない?



「よし。俺は何も聞かなかった。……話は変わるが、城で用事を思い出したからちょっと王城に行ってくるわ。」


走行中こ馬車のドアを開けようとするクーガーの肩を掴む。


「はっはっはっ。どこへ行こうかと言うのだね?クーガー君。秘密を知られたからには君も同罪だよ。つぅか非合法部隊の隊長が細かい事気にすんなよ。」


「いくら俺らでも好き好んで非合法な事はしねぇよ。つぅか王子なんか人質にして何と交渉するんだ?側室派か?」


しかめっ面のクーガーが肩を掴んだ手を振りほどきながら口を尖らせる。



「ガブリエル王太子自身とだよ。」



「あん?」


怪訝な顔をするクーガー。


一応話を聞く気になったのか、とりあえず席に座って続きを促してくる。


「今回の一連の問題の根底は王太子であるガブリエルが病弱だとって事だ。」


「思われている……?」



そう。実はガブリエルは病弱じゃあない。


あれは1種のスキル不全なのだ。


王太子はとてつもない力を得る事が出来るチートスキルを持っているのだが、簡単に言えば超大器晩成型。


むしろ初期段階ではマイナス補正がかかり過ぎていてまともに戦うことすら出来ないと言う難儀なスキルを持っているのだ。


ちなみにゲームではある程度ミカエル第2王子や王宮関係者の好感度を稼いで特定ルートに入ると、隠し攻略キャラであるガブリエルルートに分岐する。


その攻略過程で判明する事実らしい。



「―――なるほど。それが本当ならどれだけ国内外の高名な医者や魔法使いが調べても何も解決策が出てこない訳だぜ。」


「そうだ。だから必要なのは薬じゃなくスキルを使いこなす特訓だ。あの2人の存在は王太子をやる気にさせるには都合が良さそうだろ?」


はぁと疲れた長い溜息をついてクーガーが頭をガシガシと掻きむしる。


「くそ。間違いなく頭のおかしい理屈なのに否定しきれないのが悔しい。……まぁ旧男爵屋敷に王太子がいるのは確定したんだ。とりあえず中将達と合流を―――。」



「……ん?待てクーガー。一応確認だが、ガブリエル王太子が見つかったという情報、パパとママにはちゃんとだろうな?」


クーガーの独り言を聞いていて、ふと不安に駆られる。いや、分かってるよな?クーガー。

このタイミングであの2人に確定情報を渡したらどうなるかなんて。



「あん?言葉がおかしくねぇか?ちゃんと伝えてるぞ?」



おまっ!馬鹿っ―――!



ドンっ!!と轟音が閑静な住宅街に響く。


「くそっ!あの2人に確定情報なんか渡したら突っ走るに決まってるだろ!?腹を減らした猛獣の前に肉を置くようなことしやがってっ!」


「お、王都だぞ!?ここ!」


ここに来てまさかのクーガー常識人説。

流石にクーガーが悪いとは言えないが、もう少しアーネスト家を知って欲しい……。


「んなもん関係あるかっ!あの2人は正統なアーネストなんだぞ!?急ぐぞ!下手したら貴族街が更地になる!」




ズン……!ズズン……!と目的地に近づく度に大きくなる爆音と振動。


馬車を降りた俺の目の前には無惨にも破壊尽くされた旧男爵屋敷が目に飛び込んできた。


元々は手入れの行き届いていた美しい庭だったのだろう。今は見る影もなくいくつものクレーターが穿たれ、贅をこらした屋敷の一角は細切れにされ、砕かれていた。



「良かった……。まだ原型がある!」


「うん。まぁ3分の1くらいはな……。」



俺達が破壊され尽くした庭に足を踏み入れた瞬間、ドガンと壁を突き破って武装した戦士が数人まとめて吹っ飛んできた。


咄嗟に魔法を使って受け止め、とりあえず拘束する。


「ほぉん?傭兵や冒険者風の格好だが、どいつもこいつも真新しい革鎧だな。逆に剣だけは使い込んでる感じの業物……。此奴らはどこぞの貴族お抱えの騎士団だな。しかも細剣レイピア短剣マンゴーシュの二刀流。このナックルガードの細工の見事さは間違いなく西方の職人業。うん。ランドマーク家縁の騎士と見て間違いないだろう。」


受け止めた奴等をクーガーが検分する。

流石は本職。ちゃちな偽装なんか1発で見破ってくれる。



「凡そ予想通りではあるんだが―――いた!」


ランドマーク家の騎士達が吹っ飛ばされた方を見ると3階の壁に大穴が空いており、そこには銀髪の青年を抱えた壮年の男の背中が見えた。


あれは……王太子?


『Yes。銀髪の青年が王太子ガブリエル・エルネスト。壮年の男がランドマーク家騎士団の団長ですね。おそらく人質に取られているのだと思います。』


なるほどね。この手のイベントではあるあるなシーンだな。


さて、どうするか……。

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