王子達
とりあえず地獄のような親族会は乗り切れた。
何を言ったかはあんまり覚えていないが、それなりに上手く乗り切れたのではないだろうか?
作戦内容についてはナビィ先生のおすみつきだから問題ないしな。
今はクーガーが手配した馬車に皆して向かっているのだが……。
「坊ちゃん。そこを右に曲がったら後は真っ直ぐだ。目立たない馬車を用意しているからそれで現場に向かうぞ。」
俺の後ろからクーガーが指示してくる。
こんな状況で何故お前は俺の後ろにいる……。
「クーガー。やはり先程アルフォンスの言った屋敷が臭いな。吾輩のスキルでも件の屋敷はミッシェル・ランドマーク伯の息がかかってるのが確認取れた。」
「やっぱりそうですか。うちの隊員の中でも足の早い奴らを向かわせてます。そろそろ監視体制くらいは敷けているはずです。」
「それで良い。これは
俺の後ろで何やら具体的な作戦会議をパパン達が歩きながらしている。
だから何で俺がセンターなんだよ……。
この配置何かおかしくない?
向こうから通路を歩いてくる軍人さん達が俺達に気付いて道を譲る。
当然敬礼つきだ。
あの人達、絶対将校クラスだよ……。
何でさも当然のように敬礼してんだ……。
「……なぁ、3人とも。つかぬ事をお聞きしたいんだが、何で俺が王国四大騎士の3人を引き連れて歩いてるみたいになってんだ?」
後ろを振り返るとパパンが優しい顔をして頷く。
「クーガーこそいるが、やはり親子で並んで歩くのであれば子は真ん中が普通だろう。思えば家族で並んで歩くなど今までなかったからお前には違和感があるのかもな……。」
「―――確かに、よくよく考えればアルフォンスを産んでからもバタバタしていたから家族揃って出歩くなんてほとんどなかったな……。」
なるほど。ウチの両親の感覚では今の状況は親子3人でお出掛けしている感じらしい。
ちらりと後ろを見るとパパン、ママン、クーガーの後ろには非合法特殊部隊『
どう控えめに見ても院長総回診だけどな!
そんでお出掛け先は鉄火場だけどなっ!
『OOPS! 厳つい顔で良かったですね。黙ってさえいれば、内心でどれだけビビり散らしていてもバレませんし。』
ほっといてくれ……。
「アルフォンス。確認したい事は確認出来たから私達は先に現地に向かうぞ。」
「うむ。吾輩達の力があった方が監視もやりやすかろう。お前が立案した初めての作戦だ。必ずパパとママが成功させてやる。」
大船に乗ったつもりでいろと笑って2人は行ってしまった。多分走って行くんだろうな……。
あの2人馬車どころか俺の魔法より早いし……。
「なぁクーガー。あの2人何か張り切ってたけど大丈夫だよな?貴族街とか王都とか……。」
「……多分な。」
うん。ならまぁ大丈夫だろ。
……知らんけど。
とりあえずグダグダする時間も勿体ないのでクーガーが用意してくれた馬車に向かう。
「…………!!………!!」「…………!?」「…………。」「ですから…………。」
ん?何やら表の方が騒がしいな。
警備兵と誰かが揉めているのか?
「どうした?騒がしいな。」
正門の前に立つ警備兵に声を掛ける。
やはり誰かと揉めている様だ。
何?クレーマー?
「え、あ、お騒がせしてすみません。実はこの方達が……。」
警備兵の目線の先には、何だか生意気そうな子どもが2人、兵の1人に食ってかかっている。
「オイ!俺達を誰だと思っている!さっさと責任者を連れてこいっ!」
「君達軍部が王家の命令を受けて動いているのは分かっているんだ。早く話の分かる人を連れてきた方が身のためだと思うよ?」
身なりの良い子ども達だ。
偉そうな口ぶりの黒髪の子どもはその髪と同じ黒の宮廷服をラフに着こなしている。
俺の着ている軍服と同じような色合いだが、装飾の入り方はより細かく派手な感じだ。
燃えるような赤い瞳をギラつかせ兵を怒鳴りつけている。
こまっしゃくれた口ぶりの金髪の子どもは、黒髪との子と同じ型の白い宮廷服をしっかりと着こなしている。
先程の黒髪とは逆に、凍えるような青い瞳は全てを見下している様な冷たさを感じる。
多分、双子かな?
中身は正反対だが、顔の作りはよく似ている。
……ん?双子……?
……あれって第2王子と第3王子じゃね?
『Yes。金髪の方が第2王子のミカエル・エルネスト、黒髪の方が第3王子のウリエル・エルネストです。ちなみにマスターと同い年です。』
あれが例の第3王子か……。
まぁ確かに俺様キャラだし、絵的にも取り巻き2人くらい引き連れて馬鹿な事をしでかしそうな見た目してるわ……。
うん。とりあえずお引き取り願うか……。
「クーガー。あのややこしそうな糞ガキ共をつまみ出せ。」
そこまで大きな声量ではなかったのだが、耳ざとく俺の言葉を聞いていた黒髪の方、ウリエルが反応する。
「だ、誰が糞ガキだっ!?恐れ多くも俺様達はこのエルネスト王国の王子だぞ!!」
うわぁ……。絡まれちまったぞ……。
『Just right! マスター、あの2人を計画に巻き込むのも手ではありませんか?ゲームの設定では今の時期だと兄弟仲は良好なはずです。』
ふむ?確かに兄弟仲が良いのであれば使い道はあるな……。
幸いあの2人はお付きの者も連れていないし、ここで騒がれてもややこしくなるから連れて行っちまうか。
「―――おい、坊ちゃん。何を考えてんだ?ただでさえ凶悪な顔がめちゃくちゃな事になってるぜ?」
クーガーの呆れ声を無視して王子達に近づく。
「お前達の様な初対面の大人にクソ生意気な態度をとるガキを糞ガキって言うんだ。1つお利口になって良かったな?」
多分今まで人にこんな事を言われたのは初めてなのだろう。
2人ともぽかんとした顔をしている。
「そもそもおかしな話じゃないか?王子だって言うのに供回りも付けず、たった2人でこんな所に来るなんて。俺達は大事な任務に向かうところなんだ。邪魔をするんじゃない。」
俺の言葉の意味を正しく理解したのだろう。
2人同時に何かに気付き詰め寄って来る。
「お前の無礼な態度は不問にしてやる!それに俺様達の態度が気に触ったなら謝罪もする!だからその任務に俺様達も連れて行い……いや、連れて行って……ください。」
「その金髪金眼、アーネスト家縁の者だな!?
僕からも頼……お願いします!僕達のたった1人の兄様なんだ!」
おや、案外素直な反応。
もっと怒り出すと思ってたんだが……。
『Master……。無駄に煽るような事をして何がしたいんですか?』
人間は本気で起こる時、本音を話すからな。
コイツらの行動の意図を知っとかないと計画には入れ難いだろ?
……しかし、子どもだからかもしれないが、この2人は案外素直な良い子なのかもなぁ。
真摯な目で俺を見る赤と青の燃えるような瞳。
ふぅむ。まぁ仕方ないか……。
「この際隠し事はなしだ。確かに俺達の任務はお前達の予想通りのものだ。この作戦に参加するからにはお前達にも危険な目に遭ってもらう。それでもいいのか?」
「―――問題ないっ!城の大人達は信用出来ない。兄様は俺様達の手で救い出す!」
「大人達は僕達を利用する事しか考えてない。そんな中で僕たち3人は生きてきたんだ。どんな事もやる。だから僕達を連れて行ってくれ!」
なるほどね。
この一連の王位継承問題はコイツらからの目からするとそう写ってるのか。
母親を初め周りの大人達は自分達を利用して政治ごっこをしている様に見える訳だ。
父親は何してんのかねぇ?
「―――分かった。馬車に乗れ。」
クーガーが用意した馬車の1台に向かって顎をしゃくると2人は笑顔で飛び乗った。
「おいおい。いいのか?坊ちゃん。」
焦るクーガーに俺は力なく頷く。
「ああ。思っていたよりあの2人は良い奴そうだったが、仕方ないよな……。」
作戦の成功率を上げるためだ。
俺も心を鬼にしよう。
「―――待て。坊ちゃん。今何を諦めた?」
これであの2人も勉強になるだろう。
それがどんな理由であれ、知らない人について行っちゃあ駄目だと。
俺は2人の乗った馬車に向けて手をかざした。
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