親族会
「……なるほどね。アーネストを名乗っている者は少ないが、その血縁者自体はそれなりにいるってことか……。」
あの後爺ちゃんに着替えさせられ、何故か会議室に連れてこられた。
パパンやママンとお揃いの漆黒の生地を銀糸で飾られた質の良い高そうなクロックコート。
同色のズボン。ブーツも当然黒だ。
今は脱いでいるが、旧ドイツ軍の将校よろしく私物のコートは肩に掛けてみた。
普段着から軍服っぽい格好をしてるから違和感はないな。むしろしっくり来る感じだ。
ちなみに本来は襟についてる階級章は着いていない。
俺の左右に俺のついでにと軍服を着せられたリリーとユーリが座っている。
ユーリは俺と同色の黒の制服。リリーはダークグレーの制服だ。王国軍は貴族か平民かで制服の色を変えているみたいだな。
女性の制服はスカートっぽくなってるのは個人的に好評価だ。フロックコート、つまり丈の長いジャケットのデザインがワンピースっぽくなっている。
2人ともかなり緊張しているのだろう。
さっきから一言も口を開いていない。
「そういうこった。上級将校の約6割はアーネスト家の血縁者やら関係者。言うなれば軍部はアーネスト王朝って訳だ。」
席には座ろうとせず、直立して俺の後ろに控えるクーガーが笑う。
「隠形暗師、言葉には気をつけろ。」
向かいに座ったママンが怒ったような呆れたような顔をしてクーガーを窘める。
「まぁ良いじゃねぇか。アンナ。確かに隠形暗師は口さがないが、ある意味事実だぞ。アル。
お前がその気なら今から軍を率いてみるか?」
鷹揚に頷くスキンヘッドのマッチョマン。
うん。あれ、エイブラム伯父さんだわ。
「そうよアンナ。どうせアルちゃんもすぐに軍に入るんだし、先に実情を知っておくのも悪くないわ。ふふっ。良く似合ってるわよ?もうこのまま軍に入っちゃえばいいのに。軍規何かどうとでもしてあげるわ!」
妖艶な金髪美女が俺にウインクを飛ばす。
オードリー伯母さんもいる……。
「兄様も姉様もあまり無茶を言わないで下さい。アルフォンスはまだ10歳ですよ?」
疲れた顔をしてため息をつくママン。
あのママンが常識人枠とか、震えて頭がどうにかなりそうだぜ……。
「年齢以外は問題ないじゃないか。我々としては久しぶりに可愛い甥っ子の顔を見れたのだ。少しはしゃぎたくなるのも分かるだろ?アンナ。まぁ許してやってくれ。」
無表情な鋭い眼光の紳士が優雅に謝罪する。
あんた1mmも笑ってないのに、どこではしゃいでるの?アーロン伯父さん……。
通されたデカい会議室に陣取っていたのは、年末年始に顔を見合わせる親戚達だった。
俺の爺ちゃんであるアレクサンダー・キングストン元帥。無表情の紳士、長男アーロン・アラバスター大将。妖艶な美女、長女オードリー・カーライル中将。豪快そうなスキンヘッド、次男エイブラム・イングラム中将。
そして現当主アレックス・アーネスト特務大佐とその妻アンナ・アーネスト中将。
そりゃあ俺の事を知ってる軍人は俺に気を使う訳だ。軍のトップが完全に身内で固められてるじゃないか!
しかも大佐やら中佐の将校にもアーネスト関係者は多いんだろ?
ヤバくない?この組織……。
「はぁ……。よく王家はアーネスト家を取り潰さないな。―――いや、だからこそ政治とは無縁と宣言したり昇爵を断っているんだな。表立って権力を握ると国が割れるから。爺ちゃん達がアーネストの家名を名乗らないのもそのせいか……。」
よくよく考えれば、当主夫妻と息子の俺しか家名を名乗っていないのは変な話だ。
要は偉くなるつもりはないし、王に忠誠も誓うから好きにさせろと言っているのである。
潔の良い処世術だ。
多分それでも王族への忠誠心を内外にアピールしないと潰されそうな気もするけどな……。
案外、帰らずの森なんて物騒な地域を任されているのもその関係なのかもしれない。
こんな異様な戦力と権力を持った家なんか危険過ぎるだろう。俺が王様なら一瞬でも叛意の疑いを感じたら関係者まとめて即潰すわ。
「アル……。お前は本当に10歳か?」
アーロン伯父さんの後ろで直立する伯父さんの長男。従兄弟のアデル兄ちゃんが驚いている。
見た目は同い年くらいだが、兄ちゃんは正真正銘の25歳だ。
伯父さんの副官をやっているらしい。
「逆に10歳の子どもでも分かるくらいヤバいと思うよ?兄ちゃん。アーネスト家が決起したら軍部の半分くらいは同調するんじゃないか?」
投げやりに椅子にもたれかかる。
「ハン!舐めるなよ?アル!7割は同調させる。」
「んー、そうね。他家の貴族も同調するだろうから、何だかんだで国の4割くらいは巻き込めるんじゃないかしら?」
「上手くことを運べばクーデター完了まで1週間と言った所だな。逆にそれ以上時間をかけると泥沼化しそうだ。」
駄目だ。もう本格的にやべぇわアーネスト家。
この伯父伯母をテロリストとして国に売ったら許して貰えないだろうか?
「なんじゃ?アルフォンス。王様になりたいのか?しょうがないのう。どれ、今から爺ちゃんが王城を落としてきてやろう。」
そんな事を言いながらどっこいしょと席を立つ
「……坊ちゃん。今から王城に走って密告しようかと思うんですが良いですかね」
「王城は目と鼻の先だぞ?あの爺ちゃんより早く辿り着けるならそうしろ。俺は逃げる。」
もうホントやだ。この親族共……。
「冗談はさておき、皆々様そろそろ仕事に戻りませんか?」
慣れた様子でママンの後ろで立っているパパンが発言する。
「……ん。そうだな。」「婿様に言われちゃ仕方ないわね。」「さて。今日の議題は何だったか?」「もうちょい遊ばせて欲しかったのぅ。婿殿は真面目じゃ……。」
パパンが一声掛けた途端に渋々と爺さん達は悪ノリをやめる。
「……これ力関係どうなってんの?」
「階級こそ特務大佐だが、アーネスト家的には当主である
コソコソとクーガーに耳打ちをする。
なるほど。流石パパンと言う訳だ。
『To add more information、ゲーム設定的には当主家族のみがアーネストを名乗り、それ以外の身内は家臣団としてアーネスト家を支えていると言う設定です。』
ふぅむ。徹底してアーネスト本家の名前を消しているのか……。
まぁ今の所俺には関係ない話だな。
ぶっちゃけ爺ちゃんや伯父さん達が家臣団とか言われてもピンと来ねぇわ。
「―――なら、そろそろ俺達はお暇しようか。
仕事の邪魔になるといけないしな。」
このタイミングだと内心ほくそ笑みながら逃げるように席を立つ。
「なんじゃ?アルフォンス。もう行くのか?」
つまらさそうな顔をする爺ちゃん。
すかさずママンがフォローを入れてくれる。
「お父様。アルフォンスが王都に来たのもスキル授与の儀があるからです。」
「あぁ、あの下らん儀式じゃな。神なんぞという得体の知れん存在から授けられた力なんぞ、何を有難がる必要があるんじゃ。あれば便利な道具と言うだけだろうに……。」
これは爺ちゃんに同意だ。
得体が知れないどころか邪神だし。
「それにまぁ、ロウエル公爵達と合流しないといけないからね。今から公爵のタウンハウスに行く予定なんだ。」
その言葉を待っていたと言わんばかりに爺ちゃんの口元が歪む。
……なんだ?
「なら尚更ここで待っておくと良い。
―――何せ公爵には王家から逮捕命令がでとるからな。」
はぁ!?
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