軍部へ
「―――なぁクーガーさん。」
「クーガーでいいですよ?坊ちゃん。四大騎士とか言われちゃいますが、俺……いや、私は単なる平民です。」
俺の隣に飄々と座るクーガーが下手くそな敬語で応える。
ロウエル公爵家の馬車はそれなりに広く、俺とクーガー、その対面にユーリとリリーが余裕を持って座っている。
あの後、平謝りをした俺は誤って傷付けてしまったクーガーの部下達―――。
非合法特殊部隊『
幸い重傷者はおらず、特に後遺症もなく回復させる事が出来た。
初めて他人を回復させた5歳の頃から比べると俺の回復魔法の腕も上がっている。
それに回復魔法が得意なユーリもいるしな。
怒鳴られるか殴られるかと覚悟していたんだが、いい人達で助かった。
「なら俺に対しても砕けた口調で構わない。
……初対面で変な話だが、クーガーに敬語を使われるのは違和感が凄い。―――あぁ、坊ちゃん呼びはそのままでも良いぞ。子ども扱いされるのは久しぶりだ。」
「まぁその見た目だしな……。んで、どうしたんだ?坊ちゃん。何か気になる事でもあるのか?」
見た目の事は言うなよ……。
俺だって気にしてるんだぞ。
「―――いや。わざわざ送って貰っても良かったのかと思ってな。お前達も仕事があるだろ?」
そうなのだ。
何故かクーガーを初めとした
馬車の中には俺とユーリとリリー、そしてクーガーの4人だが、馬車の周りにはロウエル公爵家の護衛部隊に加え回復を終えた
野盗然とした格好からダークグレーの軍服に着替えた
そのせいなのか、さっきからユーリとリリーも若干緊張している様子だ。
「「「………………」」」
俺以外の3人が呆れた顔をして見つめ合う。
な、なんだよ……。
「なぁ嬢ちゃん達。坊ちゃんはいつもこんな感じなのか……?」
半眼でクーガーが呟く。
「あー、うん。アルはアーネストでも生え抜きだからな。御館様や奥様より酷い時がある。」
疲れた顔をして同意するリリー。
だから何がだよ……。
「あ、あのね?アルくん。クーガーさん達からしたらね?これってお仕事の範疇だと思うの。」
言い難そうにユーリが俺に言い聞かせてくる。クーガー達の仕事の範疇?俺達を送るのが?
何を言ってるんだ?
「あのな?坊ちゃん。俺達からするとついうっかりで軍の特殊部隊を全滅させる様な危険人物をそのまま放置出来る訳ないだろ?」
……なっ!?そんな扱いされてんの!?
つまり、これは連行!?逮捕されんの!?
国家権力の横暴だよ!
まさかあんな野盗っぽい連中が軍の特殊部隊だと誰も思わないだろ!?
『NO、Master。彼等は
なるほど。存在しない部隊故に攻撃されたり殺されても問題に出来ない訳か……。
……ねぇナビィさん?もしや
しかも全部把握した上で、クーガーの情報とか最低限の情報しか俺に回さなかったとかだったりしない?
『Anyway、今のタイミングで
いや、ナビィの事は信頼してるしそれはいいんだけどさ……。
「―――はぁ、まぁ良い。事実は事実。それは受け入れよう。……しかし、クーガーこれからどうするんだ?俺達はロウエル公爵達と合流するつもりだったんだが。」
窓枠に肘を置き頬杖をつき窓の外を眺める。
もう王都に入ってしばらく経つ。
先導する
「いや、まぁ悪い様にはするつもりはないんだが……。まさかこの状況でそんな態度をとるやつとか初めてみたぜ……。坊ちゃん、国に楯突いたって自覚はあるのか?これが正規部隊だったら普通に国家反逆罪だぞ。」
呆れを通り越して真顔で聞いてくるクーガー。
んなもんある訳ないだろ。
正規部隊だったら素直にごめんなさいしたわ。それに……。
「いたいけな10歳児に全滅させられる特殊部隊とか有り得んだろ?だからそんな事実はない。
違うか?クーガー。」
そうなのだ。
俺程度に全滅する特殊部隊とか絶対嘘だよ。
仮にあり得るとすれば邪神のせいだ。
「ハッ!違ぇねぇ。ウチの練度不足は目下の課題だな。ちなみに坊ちゃん。いい訓練方法とか知らないか?」
「ウチの領地にある帰らずの森とかオススメだ。良かったら今度来いよ。案内してやる。」
噂には聞いてたがそいつは良い!と手を叩いて笑うクーガー。
そう言えばコイツもパパンやママンと同じ四大騎士の1人だったな……。
「えっと、って言うことはアルはお咎めなしか?
よ、良かったぁ……。もうこの国を捨てて3人で逃げるしかないかと……。」
「よ、良かったよぅ。私もアルくん達と国を出奔する覚悟をしてた……。」
心底ホッとした顔をするリリーとユーリ。
君達そんな悲壮な覚悟をしてたの!?
「坊ちゃん……。こんないい女達を泣かせちゃ駄目だぜ?」
と呆れ顔のクーガー。
「……心配かけた2人には悪いとは思ってるけど、問答無用で攻撃して来たお前に言われるのは何か納得出来ないんだが?」
微妙にクーガーには納得いかないので反論すると、違ぇねぇと膝を叩いて笑われた。
ムッとした顔でまだ少し不安げな様子の2人に説明する様にクーガーにアイコンタクトする。
「可愛げのねぇ坊ちゃんは分かってるみたいだが、俺達
ちゃんと意図を汲み取ったクーガーが真面目な顔をして2人に説明してくれた。
改めて安心した2人の顔を見てホッとする。
窓の景色は街中を通り過ぎ、次第にこの都市の中心に向かっている。
……あれは王城か?
「どこに向かってるかって話だったな?厄介なイタズラ小僧の行先は親元って相場が決まってるだろ?」
いや、ウチの両親は王族じゃなくて軍人なんだが……?あの2人の職場は軍部だろ?
『YES、Master。エルネスト王国の王城はイギリスのウィンザー城がモチーフとなっています。王城は3つの区画に分かれた都市のようになっており、その1つが軍部の拠点になっています。』
へぇ。そうなんだ!
そう言えばウチの両親の仕事とかよく知らないな……。家では仕事の話なんかしないし。
そんな事を考えていると馬車が停車する。
「さぁついたぜ。ロウエル公爵のタウンハウスには後で送ってやるから大人しくしとけよ?坊ちゃん。」
クーガーが開けてくれた馬車のドアの先には黒々とした大きな要塞がそびえ立っていた。
これが軍部か……。
あれ?どうしたんだ?馬車から正門っぽい大扉まで
「―――傾注!! アーネスト家次期当主、アルフォンス・アーネスト様がお通りされる!総員!
クーガーの号令と共に兵達が一斉に抜剣し剣を眼前に掲げる。
……クーガー、お前どの口で大人しくしろとか言ってんだよ。
やれやれとため息1つ。
せっかくの機会だと、俺は捧げられた剣の列を歩くのだった。
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