王都への道中にて

エルネスト王国。


俺が住むアーネスト子爵領やユーリ達の住むロウエル公爵領がある国だ。


その歴史は古く、少なくとも建国から500年は超えると言われている。


その中心に存在するのが王都エルネスト。


国名と同じなので単に王都と呼ばれる事が多い。元々王家であるエルネスト家が治めていた土地であり、そこから周りの国を併呑して行き今の形に落ち着いた歴史があるらしい。

ヨーロッパの地形で言うとチェコとかその辺に位置している。



「はぁーっ。凄いな……。」


球状に展開した電磁障壁越しにカラフルな屋根と白い壁の街並みが視界いっぱいに広がり、思わずため息が漏れる。


前世でテレビ何かで見た事のあるTheヨーロッパみたいな街並みだ。


この世界に転生して10年。ほぼアーネスト領で過ごして来た俺としては人生で初めて目にする大都会だ。


ロウエル公爵領には行ったことはあるが、屋敷に行くことはあっても街には行った事ないからなぁ……。



「ふふん。どうだ?アル!すげぇだろ!」


まるで我が事のようにドヤ顔をするリリー。


「あそこにはめっちゃ人がいるんだぜ!?夜でも人通りが途切れねぇんだ!毎日祭りをしてるみたいでさ!色んな店もあるんだ!」


身振り手振りを交えて説明してくれるリリー。


ま、まあ?俺は前世では都会に住んでたから今更そんな事でテンションはあがらない―――。


……色んな店ってどんなのがあるんだ?

やっぱりファンタジー丸出しの怪しい魔女がやってる薬屋とかあるのか?頑固なドワーフの鍛冶屋とか!冒険者行きつけのボロいけど美味くて看板娘が可愛い飯屋とか!


「ちょ、ちょっと!リリー!急に動かないでよ!あ、アルくん!?馬車が揺れてるよ!?」


「す、すまん!集中が……。」



現在は王都周辺、上空200m程を飛行中だ。

馬車とユーリの護衛達を俺の魔法で浮かせている。


魔法を使い出して早10年。

俺の魔力量は馬車ごと数百kmを飛行しても問題ないレベルにまで膨れ上がっている。



「アルが集中を乱すなんて珍しいじゃねぇか!

興味ない振りしてても分かるぜ?やっぱり田舎者には都会の話は興味津々だったみたいだな!」


くっ……。お前だってちょっと前まで田舎者だった癖に……。



アーネスト領でゆっくりと数日過ごし、今朝俺達は王都へ向けて出発した。


馬が暴れないように目隠しをし、ユーリの護衛隊を含め全員を魔法で飛ばす。


なんだかんだと理由をつけてリリーが付いてきた以外は特にトラブルもない順調な旅路だ。



「ロウエル公爵達はもう着いてるんだったな。

ユーリ、待ち合わせ場所はどこだっけ?」


予定通りならロウエル公爵達は昨日の夜に王都入りしているはずだ。スキル授与の儀式は明後日から王都の教会で行われるらしいから今日明日はゆっくり王都観光が出来そうだな。


「うん。ウチのタウンハウスで大丈夫!アルくんは来た事なかったよね?王都の貴族街にあるんだ!」



ドキめもの貴族はイギリス貴族がモチーフなので、この国の大抵の貴族は自分の領地と王都にそれぞれ屋敷を持つのが基本だ。


王都周辺のタウンハウスと自分の領地に持つカントリーハウスの2つだな。


ちなみにウチはカントリーハウスのみだ。

アーネスト家は代々軍部の重鎮なので、王都に用がある時は軍部の施設を利用しているのだとか。


これは貴族としてはどうなんだろう?




『WARNING!左舷より魔力反応を探知!

狙われています!!』


って安心した傍からこれかよ!?

フラグ回収早過ぎない!?


「―――敵襲っ!左舷から狙われている!」


咄嗟に叫んで周りに事態を告げる。



防護障壁プロテクションウォール!!」


「壁よ!!」


「聖なる結界よ!悪しきものから守り給え!」


「風の精霊よ!我等を守り給え!!」



馬車の周りを飛ぶロウエル公爵家の護衛部隊が即座に反応して防御魔法を展開する。



―――良い練度だ。


魔法を発動させるだけなら詠唱自体は人それぞれ、イメージの補助が出来れば何でも良い。


基本的に詠唱は長ければ長いほど具体的なイメージを喚起させやすく威力も上がるとされているが、その分使い勝手は悪くなる。


1語から2語程度の端的な詠唱でしっかりと魔法を発動できるのは上級者の証だ。



ギィン!ガギィン!と金属同士がぶつかる甲高い音が何度も響く。


あれは鏃!弓矢か……。



この世界の弓士は平気で数km先を狙撃するし、矢の軌道を曲げたり、複数の矢をつがえて別々の獲物を仕留めたりする。


ウチだと弓はメイドのマーサが得意なのだが、あれと戦うのはちょっと無理だ。

平気で障壁貫通させてくるし……。


幸い、今回の相手はそこまでの腕はない様だ。


窓から見下ろすと数百m向こうの木陰から粗野な革鎧をつけた複数人の男達が見える。

あ、あれは―――!



「な、なぁ!あれってもしかして野盗か?」


薄汚れた装備ながらもそれなりに武装したイカつい荒くれ者の集団。


まさに俺が思い描いていた野盗グループだ。


「ふっふーん!そうだぜ!あれが野盗だ!」


胸を逸らしてドヤ顔をするリリー。


「やっぱりそうか……!都会は違うなぁ。初めて見た……!」


「……2人とも何か反応おかしくない?」


眉をひそめてユーリがボヤく。


し、仕方ないだろ!ウチは野盗なんて出ない程のド田舎なんだから!


「察してやってくれユーリ。アルは産まれてから人口数百人の領地から出たことのない田舎者なんだ……。」


だからそれはお前もだろう!?


「―――ふん。自分の事は棚上げして好き放題言いやがって……。まぁ良い。折角だし捕獲してみようか。」


そう言いつつ腕を軽く降り、馬車の周りに無数の魔力剣を生み出す。


約10年使い続けた得意魔法だ。

もう詠唱すらする事なく発動させられる。


『Master!索敵完了しました。周辺5km圏内に野盗と見られる反応53!自動照準autoaim可能です。』


良い仕事だ!ナビィ!


俺だけに見える視界の隅に浮かぶ小さなウィンドウに付近の地図と赤い丸が浮かび上がる。


複数属性刀剣魔砲マルチマジックバレル自動照準オートエイム発射ファイア!」


俺の掛け声と共にまるで雨のように魔力剣が野盗に向かって降り注ぐ。



―――恐らくこの攻撃は防がれるだろう。


自動照準と言えば聞こえは良いが、単に設定した的に向かって真っ直ぐ飛ばしているだけだ。


これで牽制して2撃目で奴等を捕獲する……!



うわぁとか、ぐわぁとか、ひでぶっ!とかメディーック!とか何やらどこかで聞いたことのある特徴のない叫び声が聞こえる。


そして静寂が周りを支配する。


……あ、あれ?あの野盗達、何で避けたり防いだりしないんだ?




「……アルくん?捕獲するんじゃなかったの?」


何やら困った顔をしてユーリが聞いてくる。


「そのつもりだったのだが……。もしかしたらこちらを油断させる為の罠かもしれん。」


あんな雑な攻撃、ダッジとマーサの息子のラムル(7歳)ですら簡単にいなしてしまうレベルだ。


いくら俺が世間知らずとは言え、流石にここまで差があるとは思えないんだが……。



『……Master。目標完全に沈黙しています。』


あっれぇー??


と、取り敢えず降りてみようか……?


『YES、それが良いかと。後、一応補足でご説明したい事が―――。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る