今後の方針

おさらいだが、俺は15歳になったら死ぬ。


勿論ゲームの話だ。


俺を含む悪ガキ3人が魔法学園に封印されていた魔王の封印を解いてしまい、魔王の手先となり最終的にはユーリと主要メンバー達に殺されると言うシナリオだ。


そして魔王の封印を解いてしまった悪ガキ3人のリーダー格がこの国の第3王子。


ウリエル・エルネストという訳だ。



「はぁ。第3王子と知り合わなければストーリーが破綻すると思って今まで近付かないようにしてたんだがな……。」



深夜、自室で独り言が口からこぼれ落ちる。


当然、ユーリは客間で寝ている。

お互い両親は不在だが屋敷には俺達以外にも使用人が何人もいるし、ユーリのお付きの人達もいる。婚約者とは言え節度のあるお付き合いはせねばならん。



リリーと会った後、何だかんだで皆で食事でもと言った流れになった。


俺もユーリもリリーとは気心知れた関係だし、三者三様の近況を面白可笑しく話していたらすっかり遅くなってしまった。



『However、王都に近付かないようにしていても下がることのない死亡確率。そして大変遺憾ではありますが、邪神からのお告げの事もあります。ここは何かしらのブレイクスルーやイノベーションは必要になってくると考えられます。』


―――だよなぁ。

2年前の邪神との邂逅で、あの邪神は二次創作感覚で俺をこの世界に転生させたって事が発覚した。


そんな頭の悪い理由で何百人も転生させる邪神の倫理観のなさとか人間性とかは兎も角、ゲームストーリーの改変自体は可能なはずなのだ。


問題はその方法だ。



「あの邪神のお告げ曰く、俺が俺として行動する事が運命改変の大事な要素だと確定した。そうなると逆に積極的にストーリーに介入して行く必要があるって事だよな……。」


ナビィ曰く、運命とは統計学的優位性の集合体だ……。そしてそれは運命に関連する人達の行動で左右される。


逆に言えば、あらゆる人達が常に同じ行動をすれば運命は非常に強固なものになるって事だ。


現時点での俺の死亡率84%。


この2年、ほぼ変わらない確率がそれを明確に物語っている。



『YES!Master。その認識で間違いありません。ですので、ここからは物語への積極的介入が必要だと進言します。』


……だな。そうなると今回の王都行きは渡りに船とも言える。


別に俺自身に何か行動制限がある訳ではないが、王都や他の土地へのパイプがなさ過ぎる。


今回はユーリがいるし、場合によっては王宮にも詳しいロウエル公爵にもアドバイスを貰えるからな。


『YES。それにマスターのご両親もです。何せ王都には軍部の本拠地があります。』


あぁ、そう言えばあの二人の職場は王都だな。

片道700kmの通勤距離だ。あの二人なら通勤時間は2時間くらいだな……。



確か二人とも大事な演習やら会議があるとかで、1週間くらいは向こうにいる。


ウチの両親は平気で息子を千尋の谷に突き落とし、命からがら上がって来たら蹴落とすタイプだが、親としての愛情はもっている。


……と思う。


本気でヤバい時は助けてくれるはずだし、王都へ行くタイミングとしては悪くないかもしれないな。



『I agree!元々10歳になったタイミングでの王都行きは既定路線ですが、ここはポジティブに捉えるべきだと思います。』


―――そう言えば昔そんな事を言ってたな。

王都へ行くイベントがあるとか何とか。


そんな話誰からも聞いてないんだが?



『Ah……、それはこの土地柄と言うか、アーネスト領だからです。本来はこの国の住人にとっては一大イベントなのですが……。』


珍しくナビィが言い淀む。


一大イベントねぇ?何かでっかい祭りでもあるのか?



『YES。ある意味お祭りです。教会での洗礼。

ゲーム的に言うならばスキル授与の儀式です。』


マジかっ!?


それはあれだろ?当たりスキルとか外れスキルがあったりして、追放されたりざまぁしたりする例のアレだろ?


『Exactly!この国ではスキルがかなり重要視されており、この儀式で人生の方向性が確定すると言っても過言ではありません。』



大イベントじゃないかっ!

何で誰も俺に教えてくれないの!?


『アーネスト領ではスキルよりも鍛えた肉体を重要視する傾向にあると言いますか……。

例えそれが神や世界でも他人から与えられた力に興味がないのです。』


あー、うん……。そうね。

確かにウチってそんな感じあるわ……。


……しかし、この国のスタンダードな考えではスキルとは神からの祝福であり、かなり絶対的な物としてあつかわれているのか。


あ、そっか!だからゲームのユーリはその儀式で特別なスキルを認められたから、平民なのに魔法学園に入学出来たのか!


『マスターのお考え通りです。ユーリ嬢は光神の寵愛と言うユニークスキルを発現します。これはこの世界でも同一とお考え下さい。』


光神の寵愛ねぇ?

光の聖女と呼ばれる予定のユーリにはいかにもなスキルだな。


聞けば光魔法の威力アップやら消費魔力が少なくなったり、知能や身体能力の向上など、複数の効果を内包した激レアスキルらしい。


主人公御用達のつくづくチートなスキルだな。



―――ちなみに俺はどんなスキルなんだ?


『剛力と言うコモンスキルですね……。』


……うん。まぁ原作じゃあ見た目通りのパワーファイターだもんね俺……。


『YES。力に補正がかかるオーソドックスなスキルですね。』


そっかあ、まぁ、うん。

力が強くなるなら腐る事はない……よな?

基本的に魔法使いだけど、俺。ママンから習ってる剣も最近はそこそこ使える様にはなってきたし……。


『参考までにですが、リリーは知覚や思考、肉体等あらゆる速度を大きく向上させる迅雷の獣と言う複合レアスキル。父君や母君は直接戦闘に影響するスキルではありませんが、その知識や感覚に大きな補正が入るレアスキルを所持されています。』


……なぁ?そんなに事実の棍棒で俺を滅多打ちして楽しいのか?


どーせ俺はモブですよ!フン!


『Just kidding!スキルは神からの祝福。すなわちゲームの設定です。マスターに必要なのは設定をひっくり返すゲーム外の力……。私はそこに運命を打ち砕く要素があると考えています。』


ゲーム外の力か……。

現代知識無双とかって事か?何度か試してみたけど、この世界って変に発展してるからなぁ。まぁその辺は今後の課題だな。


さてさて。どうなる事やら……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る