オッサン、10歳になる。
俺の住むエルネスト王国はかなり広い。
ドキめものフィールドマップは現実世界の地図がベースになっているらしく、ほぼヨーロッパ全域をカバーする国土を誇っている。
(ナビィ曰く、実際のヨーロッパ程の広さはないらしいが)
ちなみに北東には大陸最強国家の呼び声が高いドラグール帝国が現実世界で言うとロシアや中東付近、モンゴルなんかの辺り一面を国土としているし、インドや東南アジア付近には神聖共和国なる宗教国家があったりとこの大陸には複数の国家が存在している。
つまり、何が言いたいのかと言うと、国土が広過ぎて移動が死ぬほどめんどくさい……。
「うぅ……。身体がバキバキだよ……。」
ウチの屋敷の正門前に付けられた豪華な馬車からユーリが降りて来る。
エスコートもそこそこに両腕を真上に伸ばして背伸びをしている。
淑女としては不作法な動きだが、不思議とそれが愛らしく見えるのは彼女の生来の品の良さがなせる技だろう。
ピンクブロンドの長い髪と大きな翡翠の瞳がトレードマークの彼女は手足も伸び、少しずつ子どもから大人に変わりつつある。
彼女と目が合うとニコリと微笑みかけられる。
うーん。可愛い……。
彼女が住むロウエル公爵領は王国の南側一帯。
イタリアやスイス、オーストリア付近のイメージだ。
山も海もあるし気候だって良い恵まれた立地。
当然、ウチの様に領地の半分以上が危険な森に覆われていることもない。
そんなロウエル公爵領からウチの領地までは凡そ500km。高速馬車でも約4日間の道程だ。
それだけ離れていても年に何回もわざわざ家に来ているのだから頭の下がる話だ。
ユーリの乗る馬車を護衛する騎士達やお世話をする侍女達も手馴れた様子で荷物を運んだり、連れている馬を移動させたりしている。
「いつも大変だな……。何なら次からはロウエル公爵領まで迎えに行こう。」
俺が魔法で飛んで行くか、何なら走った方が早いからなぁ。実際、高ランク冒険者とかは馬車とか使わずに皆走ってるらしいし。
「それはめちゃくちゃ嬉しいけど、アーネスト領には来たいし大丈夫!それにここからはアルくんが目的地までに送ってくれるしね!」
一石二鳥だよとイタズラっぽく笑うユーリ。
トレードマークのハーフツインが初夏の風に揺れる。真っ白なサマードレスの胸元からチラチラと見える白い谷間が眩しいぜ。
そうなのだ。500kmを超える長距離移動をするのであれば、一旦ウチの領地にやって来てそのまま俺が魔法で飛んだ方が早いのだ。
もちろんロウエル公爵領にもお抱えの高位魔法使いは沢山いるし、飛行魔法の使い手もいる。
問題は燃費だ。
基本的に飛行魔法は燃費が悪い。
しかも大抵は公爵家の公務だ。
当然、身一つで移動するのではなく、複数人の従者や侍女、護衛なんかが帯同する。
どれだけ少なくとも10数人以上の大所帯。
流石に全てを飛ばすのは大変だ。
しかし俺の場合は比較的効率の良いオリジナル魔法があるし、魔力量も異様に豊富だ。
人1人どころか、馬車ごと10数人飛ばしても尚余裕がある。
だから2年くらい前からユーリ達ロウエル公爵家族はちょくちょくウチの領地にやって来る。
「今回はユーリだけなんだな。公爵ご夫婦はどうしたんだ?」
今回は珍しくユーリだけだ。
当然、お付きの使用人やら警備の兵士やらはいるので完全な1人ではないが、あの子煩悩なダミアン公爵がユーリだけをこちらに寄越すとは思えないんだが……。
「今回はそれなりに見栄を張る必要があるらしくてさ。ロウエル領の騎士団からいつもより大人数の護衛部隊を引き連れて行くんだって。
……お母さまが私だけこっちに来てゆっくりしてからアルくんに送ってもらいなさいって。」
なるほど。ダミアン公爵自身は割と気さくなタイプだが、流石は大貴族。
時には大量の荷物や付き人を引き連れて大名行列をする必要があるらしい。
しかし、それダミアン公爵は大丈夫なの……?
娘を溺愛する公爵の冷たい笑顔を妄想してブルりと身を震わす。
「―――最近会うことなかったけど、またアルくん身長伸びてない?」
胸元くらいの背丈のユーリが覗き込んでくる。
俺の身長はこの2年でスクスクと伸び、現在は170くらいまで伸びている。
ゲームでは15歳で190cm近くあるらしいから、俺は二次性徴が早目なのかもしれない。
パパン似の筋肉質な身体と顔は厳つく、ママン譲りの金色の瞳は眼力が半端ない。 黙ってると大体怒ってると勘違いされるのが最近の悩みだ。
こんな見た目をしているので、年齢よりも年かさに見られる事が殆どで、まぁ、成人男性にしか見えない事は否定出来ない。
「かもな。それに最近は剣の修行ばっかりしてるから筋肉がついた気がするよ。」
さすがにパパンのアメコミヒーローみたいな筋肉ではないが、格闘家みたいな身体になってきている。
凄い!カチカチだ!と言ってぺたぺたと俺の腕やら何やらを触るユーリ。
俺の鼻腔を何やらいい匂いがくすぐる。
……やばい。なんかドキドキする。
「あ!あぁっ!!な、な、何やってんだよ!?
アル!お嬢!」
向こうから聞き覚えのある何だか動揺した声が聞こえる。
陽に焼けたオレンジ色のポニーテールが踊る。
橙色の猫目を大きく開き、リリーが体重を感じさせない動きでこちらに走ってきた。
「よ、よお、リリー。こっちに帰ってたのか!」
リリーは昨年くらいから冒険者になった。
主な活動地域を限定せずに色んな所を文字通り走り回っている。
なんせこの世界の実力者になると障害物をものともせずに車より早く走るのだ。
この世界では馬より人の方が足が早い場合が多々ある。アーネスト領だと特にだ。
これはファンタジーが現実になる事で起こった歪さのひとつなんだろうな。
「こんな天下の往来で何イチャイチャしてんだよ!婚約者だからって距離近くね!?」
「これくらい普通ですぅ!リリーこそそんな短いズボン履いて!誰にアピールしてるのよ!」
久しぶりに会って早々、言い争う2人。
うん。いつも通りだな。
16歳になったリリーはもう見た目は大人だ。
ショートパンツから見える小麦色の肌がやけに目に付くな……。
「ほら!見てみろ!アルはアタシの足に見惚れてんぞ!」
「そんな事ないよ!アルくんは私の胸に釘付けだったんだからっ!」
「む、胸ならアタシの方があるだろ!」
「そのうちリリーより大きくなるもん!」
……やめて。やめてお願い。
俺の邪な目線を読まないで……。
1人悶えて黙り込んでいると、ニヤニヤしながらこっちを見る2人と目が合う。
……言い争っている様に見えたが、あれは2人なりの挨拶だ。年齢も身分も性格も違う2人だが、何だかんだで仲が良い。
「―――ごほん。……あー、今帰って来たのか?リリー。」
自分でも分かるくらいわざとらしい咳払いをしてから強引に話題を変える。
「そ。北のマルクゼール辺境伯領で仕事だったんだ。んで、その帰りに村に寄ったらお嬢が来るって言うから顔を見に来たのさ!」
マルクゼール辺境伯領はここから北へ700km程行ったところにある国境がある地域だ。
ドラグール帝国と小競り合いも多く、割ときな臭い土地柄なので冒険者にとっては仕事に事欠かない場所だと聞いている。
ちょっと隣町に行くくらいのノリでリリーは話しているが、それも彼女の実力の高さがうかがえる発言だろう。
「えっと、これから2人はどこかに行くのか?」
「ん?あぁ、ロウエル公爵の公務先までリリーを送りに……今回はどこだっけ?」
そう言えば行先は聞いてなかったな。
「言ってなかったっけ?―――王都だよ!」
王都!?
―――そう。この世界に転生し10年。
ついにゲームの
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