お久しぶりですね

大人達の笑い声が遠くに聞こえる。


俺は祭りの輪から離れ、村近くの湖畔のほとりで大の字になって寝っ転がる。


酔っ払い達に絡まれ疲れた俺は戦略的撤退を敢行したのだ。


祭りという名の宴会はまだまだ終わらないらしく、笑い声に酔った調子外れの聞き馴染みのない歌と下手くそな楽器の音が加わる。



祭りは無事に開催された。


リリーと2人で暴風龍ストームドラゴンを倒した後、村の人達に手伝って貰って足だけ潰した集団暴走モンスターパレードを起こした魔物を仕留めた。


これだけあれば不足分も足りるだろうと村に帰ると、陸竜亀グランドタートルドラゴンを初めとした10mや15m級の魔物が山になっていた。


ダッジを加えた村の男衆が本気の本気を出したらしい。


って言うか誰だよ?あのデカ亀の甲羅を叩き割った奴。どう見ても一撃で叩き割ってるんですけど?もう少し人類としての自覚を持って下さいよ……。


なんやかんやあったが、終わってみれば過去最高の高さで未来のトーテムを建築する事となった。40mは確実に超えてたと思う。


何より面白かったのはパパンとママンの驚いた顔が見れた事だな。


馬鹿でかい2つのトーテムの山と暴風龍ストームドラゴンの前で目を見開いて驚く2人に村の皆と一緒にドヤ顔をかましてやった。



「―――来年はどうなるのかねぇ?」


そんな先の心配がふと口からこぼれ落ちる。

流石に今回みたいなのはもう勘弁して欲しい。



「まぁた先の心配かよ。そんなのはその時のアタシ達が頑張るさ。今日と明日がありゃあそれで良いだろう?」


呆れた声が頭の上から降ってくる。


手に2人分の料理を持ったリリーが苦笑して立っていた。


「……もうコイツは性分だよ。」


リリーから料理が乗ったお盆を受け取り苦笑する。



……むしろ15歳での死亡を宣言されている俺からすると、未来への不安とは漠然とした不安ではなく目下の最重要案件だ。


ただそれでも、リリーのおかげで少し周りに目を向けれるようになったと思う。


ここはゲームじゃないし、皆はNPCじゃない。

それぞれ自分の想いや考えで生きている人間なのだ。


もう自分をモブと言うのはやめよう。

ゲームの役割を受け入れてちゃあ、ゲームのシナリオなんか改変出来る訳がない。



15歳での俺の死亡確率87%。


今回の事件がきっかけで、今まで微動だにしなかった死亡率9割の壁を越えた。


多分、ここに運命を打破する何かがあるんだ。




「せぇーかぁーい!」


鈴のなる様な楽しそうな声が響く。

こ、この声は!



気付けば周りの景色から色が抜け落ち、全てが停止している。


さっきまで聞こえていた下手くそな酔っ払いの祭囃子の音も聞こえない。


り、リリー!?


横を見るとリリーが俺の方を見たまま固まっている。モノクロの停止世界で俺だけが動いている状態だ。


な、ナビィ!お前は無事か!?


返答がない……。

まさかナビィまで……?



「そりゃあそうよ。ナビィは神格とは言え擬似だからね。製作者である私には抗えないの。」


あぁ、そう言えばナビィを創ったのはアンタだったな……。邪神様?


「くすくす。アンタの邪神呼ばわりも何だか気に入ってきたわ。久しぶりね!」


モノクロの世界の天から光が降り注ぎ、女神が降臨する。



金とも白銀ともつかない美しい長い髪。

整ったその美しい眉目は秀麗等という単語では表せない気品とオーラがある。



「久方ぶりの邂逅に創世神たる私の祝福を。転生者にして我が愛し子。アルフォンス・アーネストよ。此度は汝に捧げられた供物により顕現する事と相成りました。」



……邪神様。いちいちそれっぽいだけの意味のない挨拶するのは決まり事なのか?


つぅかアンタに恨み言はダース単位で捧げてるけど、供物何か捧げた覚えはないぞ。



「様式美よ様式美!しっかり捧げたわよ?

ほら、神饌ってつまり私への捧げ物じゃん。」


神々しいオーラは消え、俺の真横に瞬間移動して来た邪神様が軽い調子で話しかけて来る。


あー、あのドラゴンか……。

あんな蛮族の宴で神降臨とか気安過ぎない?


「そこはアンタだからよ。この世界中で私への捧げ物やら儀式やらは毎日行われてるけど、見ず知らずの人に呼ばれたからってホイホイ顔を出すほど安い女じゃないのよ。私。」


ふふん!っと謎のドヤ顔をかます邪神様。


それはどうも。でも、別に俺はそんなに親しいつもりはないんだけど?


「あ、そーゆう事言う?せっかく頑張ってるみたいだからご褒美用意したのに!」


いらねぇーよ。どうせくだらないヤツだろ?

っつーかさっきの正解ってのは俺の運命を変える話だよな?


「失礼しちゃうわ!いいモノ用意してあげたのに!全く!えーえー、そうよ!アンタの運命を変えるにはストーリーを受け入れては駄目。そしてそれはキャラクターとしての在り方を受け入れても駄目なの。」


腕を組んでむくれながらも応えてくれる邪神様。結構いい人?神?ではあるよな。

邪神だけど……。


「神に良いも悪いもないんだけどねぇ。ま、いいわ。アンタをこの世界に転生させたのはこの世界の可能性の検証よ。」



検証……?

前は実験とか言ってたよな。


つまり、何かしらの目標があって、それを実現出来るかを検証実験してるってことか?



「そう。本来変わる事のない強固な運命を変えれば、この世界に生きる人間達の運命や在り方も変わる可能性が高いわ。……私はそれを観測したいの。」



ほぉ?邪神様としてもこの世界の運命を変えたいって事か……。


……あれ?この世界はアンタの好きなゲームの世界なんだよな?


つまり、運命を変えるって事はゲームのストーリーを変えるって事に他ならない。


俺が15歳を超えて生き残ると、当然この世界の人達の運命も変わる。


バタフライ・エフェクトってやつだな。


邪神様はこのゲームと言うか、発言的にキャラ好きを拗らせている風だった。


それってつまり……。



「そ、そうね。そのバタフライ・エフェクトを観測したいと言うのが私の目的と言えるわね。」


俺の考えを読んでるからだろう。

何だか目が泳ぎ出した邪神様。


じっと邪神様の目を見る。


うん。バタフライ・エフェクトと言うより完全に目がバタフライで泳いでますわ。

これはもう確定です……。



「邪神様。……アンタ、二次創作感覚で俺を転生させたな?具体的には好きなキャラの見たことないシチュエーションが見たいなぁとか考えてない?」


「―――それじゃ!良い余生を!あ、ご褒美は後々分かるから!」


あ、コラ!逃げるな邪神!!



現れた時とは逆になんの前触れもなく邪神様は消えて行った。



マジか……。

マジで薄い本を描く感覚で転生させてたのか。


やっぱり邪神じゃねぇかっ!!!




『OH MY GOD……。いえ、この場合はEvil Godでしょうか?邪神が顕現したのですね?』


邪神の呪いが解けたのか、ナビィの頼もしい無機質な声が脳内に響く。


あぁ。どうやら俺の運命を改変させる手立てが見つかった様だ。


後、邪神様はやっぱり邪神だった事が分かった。


『それは僥倖。それに言ったじゃないですか。アレは本当に邪神ですよ?……ですが、癪な事に誰よりも力を持つ神であり、嘘をつく事はありません。アレが言ったのならそれは全て事実です。』


あぁ。あの邪神様に乗せられるのは気に食わないが、運命の潰し方が分かったんだ。


やってやるさ……!



「……なぁアル。なんかあったのか?」


不思議そうに俺の顔を覗き込んでくるリリー。

おっと、忘れてた。


もう世界の時間は動き出したらしい。

あの調子っぱずれの祭囃子も聞こえてきた。



「あー、いや、なんにもないよ。」


誤魔化す様に再び大の字になって寝っ転がる。



「……ふーん?」


ドサっとリリーが俺の上に覆いかぶさって来る。


ちょ!?リリーさん?


「なぁーんか吹っ切れたって言うか、ちょっと変わった気がするけどな。」


そう言いながら顔を近付けてくるリリー。

何だかいつもと違って妖艶な色気すら感じる。


近い近い近い!

いつもの革鎧をつけてないから色々柔らかいし何だか良い匂いがする!


リリーの橙色の大きな瞳と目が合う。



「どうだ!?自信出たか!?」



……ん?



「村の三馬鹿に聞いたんだ!男は女を抱くと自信がつくもんだって!……アタシだって一応、女だし、どう?自信出た?」



……性教育っ!

抱くの意味が違うっ!!



「まだ自信出ないなら、もうちょい強く抱き締めても、……いいぞ?」


やはりそれなりに恥ずかしいのか顔を赤くしたリリーが上目遣いで、こんな事するのはアルだけだからな!とか言ってくる。


くそっ。可愛いぞコイツ!

……後、あの三馬鹿はぶん殴る。

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